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2015.09.19~09.22 大峰 北山川水系前鬼川孔雀又谷右俣遡行~明星ヶ岳(後編)

アメシ谷下の右岸に張ったツェルトの下で目覚めると既に下手の幕場にビバークしていた
4人パーティの炊煙が立っていた。6時半。

のそっと起き出して焚火の燠を起こす。

昨夜の残りメシに味噌を放り込み、沢水でゆるくして雑炊のようにして温める。

梅干しをしゃぶりながらもそもそ食べていると、下のパーティが

「おさきに」と上がっていった。

ツェルトをたたみながら見上げた空は高曇り。

風はない。

暑くも寒くもない快適な気温。

ツェルトとシュラフをたたんでザックに押し込み、まだ冷たい靴下を

焚火にあてて温めているうちに、マットの上で寝入ってしまった。

再び目が覚めたのは8時(笑)

こりゃさすがにいかんな。

こんどはそそくさと荷をまとめ、装束を整えて出かける。

いくつかの小滝をやりすごしながら進むと谷の両岸はやがて高い嵓が目立ち始め
大きな滝の予感を漂わせる。

15mないが、なかなかに立派な滝が行く手をふさいだ。
滝身左手のブッシュのコンタクトラインを登れなくもないが
右岸にすぐ階段状のルンゼが落ちているので、狭いとこ好きな私は
迷わずこのルンゼを登って巻く。

続いて、20mほどはある立ったナメ滝

滝身周辺は手が付けられないので、これまた右岸のルンゼに活路を求める。
このルンゼは落ち口チョイ下くらいの高さで右手からガレを入れている。
このガレに転じてから小尾根のようになった地形を乗り越すと、容易に滝上に出た。
緩い斜面にミズナラやブナ、ヒメシャラが茂る明るい林。

右手に見える沢床は傾斜を増して巨石が積み重なっている。
重荷背負ってボルダーをウロウロするのも煩わしく、巻いたままの斜面を
トラバースしながら高度を上げてゆくことにした。

階段状30mに差し掛かる手前で谷は伏流の様相を見せ始める。
ここで、詰めに備えペチャポリに水を満たす。
やがて見えた階段状30mは快適。

ぬめりにだけ気を付けながらワシワシと登ってゆくと
規模の大きな崩壊地に飛び出す。
右岸からも左岸からもかなり大規模にガレが押し出してきている。

日が差してきて白い岩肌に反射する。暑いくらいだ。
最後に40mが見えた時には少し日が陰ってきていた。
この滝は「枯滝」とガイドブックに書かれていたが

あれ?

しみ出し以上に水が流れている。

乾いたリッジ状を選んで登る。先ほどより少し立っているが、手足豊富。

最後は水枯れを確認し、左岸の尾根からさらにもう一つ向こうの尾根に
トラバースし、

退渓、詰めに入る。
ふか、ふか、とした苔が足に優しい・・・・

ひと登りして12:30、孔雀岳北の稜線上、奥駆道に抜けた。

霧が濃くなっている。風は緩やかで、かえってこの霧を幽玄に漂わせる演出
まずは1本立てる。旨い。

大休止しながら装束を解き、トレッキングシューズに履き替える。
さて。
本当は昼前にここに抜けて今夜は狼平、と決めていたのだが
時間も2時間押し、それに意外と疲れてしまったのと、なんだか股ズレが痛くて
そんなこんなでかなりめんどくさくなったので
時間は早いが、ここから北に一番近い楊子ヶ宿小屋で泊に予定を変更することにした。

14:30に到着した小屋は非常にきれいな小屋であった。
私が入った時には先行は1名。この小屋と行者、狼平らの3つの無人小屋を
ボランティアで月に一度整備して回っている横田さんが入っておられた。
やがて三々五々と登山者が集まってきた。

単独者同士の静かな語らいと、鹿の鳴き声、ろうそくの炎のかすかな揺らぎ。
小キジを撃ちに外に出ると、雲が切れた空は張り詰めた空気をまとい
漆黒のスクリーンに満天の星をちりばめていた。

流れ星、ひとつ、ふたつ。

残った酒を干しシュラフに潜り込む。

夜が明けた。

昨日の時点で、今日、明星ヶ岳から天川河合に降りる腹で居たので
朝をまったりと過ごすことにした。

宿泊者はそれぞれに小屋を後にする。

お世話になった同宿の方々と。

ありがとうございました。

私は少し残って、預かったごみを小屋前のファイヤープレイスで燃やして処理する役を
買って出た。

朝露がさわやかに輝いてるうちに稜線を歩き出す。

七面山南壁が見える。

秋の空は高いなぁ。

お。迷平

明星ケ岳手前で東側からガスが上がってきた。

ガスで眺望がないことを嫌う人も多いだろうが
私はガスあってこその大峰だと思っている。
てか、ガスのない大峰なんて、大峰じゃない。

明星ヶ岳を西側から巻き、弥山辻からよく整備されたレンゲ道を
ゆるゆると下る。
奥駆道が修験の道であるなら、このレンゲ道はかつてこの背骨のような山脈を
横断する生活の道であった。

シラビソの南限となる学術的に貴重な樹林帯でそうです。

標高を下げると、どこか人懐かしい雑木林の趣に。

山道はやがて崩壊した坪ノ内林道に沿って下り
門前山から一気に河合の集落に駆け下る。
役場の上手の橋を渡り

短い旅は、終わった。

洞川温泉に立ち寄り、旅の垢を落とした後

アメノウオで旅の余韻に浸った。

大峰の奥深さに、しみじみ、魅了された旅となった。

山の神様

ありがとうございます。

2015.09.19~09.22 大峰 北山川水系前鬼川孔雀又谷右俣遡行~明星ヶ岳(前編)

旅。

沢をたどり
稜線を歩き
嶺の向こう側へ抜ける。

山並に隔絶された此方と彼方を自らの足で結ぶ。

縦走ではなく、登攀ではなく。

旅。

旅がしたかった。
幕営装備を担ぎ、短くはあるが山中にかりそめの庵を結びながら「山で生きる」ことの
実践に、私は私なりに登山行為の意義をみる。

年内にとれるまとまった休みとしては最後だった。
冒頭で述べたようなスタイルの山旅は、単独の場合車のデポなどできないので
当然公共交通機関になる。

公共交通機関でのアプローチが悪い北山川水系をターゲットに大峰を西に越えるという
ルートを取るなら、このシルバーウィークが最後のチャンスであった。

直前まで池原まで足を延ばし、池郷本谷上部まで分け入り嫁越~西へ下って滝川赤井谷を千丈平か
迷っていた。

最後はガイド本のグレードで決めたというのもなんだか俗っぽいが
この際だから中級と目される沢をきちんとやっておこうとの思いから前鬼川に。
それに巷間で噂の前鬼ブルーは是非に見ておきたい。

【山行実施日】2015年9月19日(前夜発)~9月22日
【天候】晴れ(20日)。遡行開始時気温:覚えてません
【メンバー】Chanko,単独
【装備】フェルトソール・8x30mロープ・三つ道具

藤井寺から近鉄で上市へ。
30分ほどの待ち時間で大淀バスセンターから数人のおばあちゃんを乗せた小さなバスが
とことこやってきた。
16時半。好天の一日は赤い夕陽の最後っ屁で山を照らしながら暮れゆく気配を匂わせる。
のんびりとしたおばあちゃんたちの会話を車内に漂わせ
バスは川沿いの国道169をすすむ。
杉の湯で長い休みをとったあとふたたび下桑原方面へ動き出したバスは
18時40分頃に前鬼口のバス停で私を降ろした。私は、最後の客であった。

林道入り口の「かどや」の軒先に灯るすすけた明かり以外の灯はない。

ヘッデンをつけて、ここからとにかくできるだけ入渓点に近いところまで今夜は進み
幕とすることにした。

ときおりテンが闖入者の様子を伺いにちろちろと遊びに来る。

1時間半あるいただろうか。
不動滝への降り口を分けてすこし上に行ったあたりに
焚火が見えた。
ちょっとほっとしたし、焚火があるということは適地なんだろう、面倒だし畳一枚分でも
スペースがあれば同宿お願いしようと近づいて声をかけた。
※びっくりさせてごめんなさい

林道の谷側に張り出した台地状の駐車スペースに車を停めて焚き火を肴にしていた二人の男性のご厚意に甘え焚き火に当たらせていただき、ビールをご馳走になった。

揺らめく炎

満天の星空

W田さんとK下さんは大峰の溪をあちこち渡り歩き写真を撮るのがご趣味。
この日も滝川から転戦し明日前鬼に入られると。
往年の凄腕クライマーであるW田さんと山談義、
大峰の沢を釣り歩いているK下さんとの釣り談義に花が咲き
気付くともう午前0時を回ろうとしていた。

風上側に車を置いた焚き火との間に
寝床をしつらえさせていただいた。
降ることはない。幕は要らない。
満天の星空が天幕。

滝の音がゆっくりと遠くなっていった。

翌朝目覚めると空高くうろこ雲が遊弋していた。
気温もさして低くない。絶好の沢日和か

御二方はまだ車の中で眠っているようだ。
一宿のお礼に先ずは焚火の熾きを目覚めさせる。

ほどなく車から出てきたW田さん、K下さんとお茶を飲んで一服してから、先に泊地を辞した。
お世話になりました。
ありがとうございます。

黒谷出合上部の入渓点まで林道をたどる。
どうどうと流れ落ちる不動七重の滝下部を望む。

整えられた林道終点がちょうど入渓点であった。

沢床に降りてみたが、まぁ
あまりぱっとしない。

沢支度を整え、清冽な水を手水に浄め、いつもの儀式
2礼2拍手1礼

山の神様、今回も無事に実りある山行ができますよう、御見守りください。

黒谷をまずは降渓する。本流の出合まではすぐだ。

エメラルドの輝く流れを漫歩する。

渓は麦に大きく向きを変え、そのとば口に2段10mが懸かる。

右手から簡単に登ることはできる様だ。
ただ、この落ち口で左岸から右岸への渡渉があるという。問題は水量と水勢だが・・・・
しばし思案しているとW田さんとK下さんが追い付いてこられた。
W田さんの見立てでは本日の水量では落ち口渡渉はリスク高いので
すこしもどった左岸から巻き上がるという。
わたしもご一緒させていただいた。

巻道は左岸の泥付ルンゼの右岸に「これか・・・?」と思しき踏み跡があったが
登りきる手前で崩れており腐った倒木が浮いている。
「こりゃぁ嫌らしくなっちゃったもんだなぁ・・・」と
W田さんがロープを引いて先行しK下さんを確保してあげたあと、
私はW田さんがしっかりした灌木にワンポイントでかけてくれたスリングを掴んで重荷を
背負った体を引き上げた。

左手に滝の落ち口を見ながら巻いていくと
「なぜわざわざ落ち口で渡渉するか??」という理由がよく分かった。
滝の右手岩場を這い上がったところですぐに立った岩場に阻まれその先が淵となっている。
抜けても岸が絶妙にナメており足場が悪い。対してあちら側の右岸はまだ足元がマシである。
問題はやはり渡渉ポイントの水勢と、沢床がナメているので下手をすると水に持ってかれて
しまうことだろう。

巻いた先の急斜面をちょっとした懸垂下降で降りて沢床復帰。いずれにしてもこちら側は
ナメた傾斜のある岩盤なので右岸に渡渉をするのだがひざ下程度の渡渉で済むので落ち口よりは
遥かに安全だ。

わたり切って上流を見ると左にカーブしながら渓は極上のナメを連ねる。

ここで、この極上のナメでの撮影をお目当てにやってきた御二方とは再びお別れし、
私はさらに歩みを進める。

ありがとうございました。

栃の実が、ポットホールの中で踊っている。
実りの季節を感じる。

やがて右岸から三重滝の合流点が見えるあたり、あまたの湧水が本流に合わさる光景は
壮観である。

湧水の清冽さに現れながら左岸をたどると三重の滝に上る登山道と合わさり
垢離取場に導かれた。

一本立てながら、沢日和のお恵みに深く感謝。
淵に身を沈め拝む。

深仙谷を分けると目の前に五百羅漢を従えて神座とも言うべき岩塔がそびえていた。

夜になると神様が戻ってくるのだろう。
そろそろ幕場を探すことにしよう。
Co880で孔雀又左谷を分けてからすぐに植林小屋跡が右岸にありその
すこし上に聖地が必要ないくらいのおあつらえ向きな台地があった。
すぐ上手に大きな岩があり、夜半の沢嵐も避けられるうえ
後背は傾斜の緩い斜面になっている。
沢床からは1m以上の高さもあり薪も周囲には豊富だ。
ここまで実際は思ったよりも時間がかかってしまった。

先ずは薪を集め、幕を張る。

一服

飯を炊く

シンプルで贅沢な時間が流れてゆく。

独り
吾れ渓中に在り。

2015.05.05~05.06 大峰 川迫川水系 神童子谷~犬取谷遡行

【携帯水没】

しました。
いろいろ撮ってた写真が全部見れなくなっちゃいまして。
無念です。

それゆえ今回の遡行記録は写真のない、まったく文字だけの記録になってしまいます。
現場での新緑と大峰ブルーの瑞々しさを表せるはずもなくパサパサな記録になっちゃいますが
ご了承ください。

【山行実施日】2015年5月5日 ~5月6日
【天候】5月5日・・・快晴
5月6日・・・朝のうち快晴、午後より薄曇り

【メンバー】単独

【装備】フェルトソール・8x30mロープ

【ルート】1日目:大川口~(神童子林道)~終点入渓⇒レンゲ辻谷出合幕営(15:00)
2日目:レンゲ辻谷出合~山上ノ辻(稲村小屋)⇒洞川温泉(13:00)
【行動時間】12時間(休憩・釣り込)

①1日目

朝6時に妻に最寄りのJR駅まで送ってもらい天王寺下車。
近鉄の阿部野橋より吉野行き急行(06:50発)で下市口に08:02着。
日曜祝日のみで洞川温泉行きの季節運航の臨時急行バスが08:20発。
急行に途中から続々と乗ってきた登山客と思しき乗客は案の定下市口駅で
大挙して降車し、先を争うようにバス停へ向かう。
幸いに前から10番目くらいの乗車順につけて並ぶことができた。
朝から快晴。前日は一時的に天気のぐずつきがあったが、予報、天気図では
5,6日共に大陸からの高気圧の張り出しに覆われ安定した好天が確実だったため
憂いない山行になりそう。晴天の元の大峰ブルーに否が応でも期待は高まる。
問題は天川川合からのアプローチで、公共交通機関はなく、天川村に1台しかない村のタクシーを
使わなければ

(予約できんとのこと。予約のできるタクシーは吉野とか大淀から回送の為アホみたいに高くつく)

A)自前のアンヨで3時間ちょいひたすら歩く
B)おそらくバス停で待ち構えている天川タクシーに相乗りキボンヌルで潜り込む
※これはその車が、R309でみたらい渓谷より向こうへ行く客を乗せる予定であることが
前提となる。
C)テクテク歩いている途中でに背後から行者還トンネル方面へ行く車を見つけヒッチハイクする。

の3つの選択肢がある。計画書はA)の時間計画で出してはいるが、こんなスカッ晴れで風の弱い日に
カンカン照りのお日様に向かって歩き続けるのはナンボ修行の山といってもなるべくご勘弁願いたい。
しかも舗装道歩き。

バスに揺られ揺られて50分ほど。
まぁ何とかなるやろ、と楽天的に考えていた。
バス停に着くとやはりタクシーはバス停で待ち構えていた。
3人の学生さんが行者還トンネル西口まで乗るとのことでワリカン相乗り決定!
ラッキー!これで2時間半は余裕が出る。
車は20分ほどで大川口についた。ワリカン分を学生さんに渡し車を降りると
眼下の川迫川本流にはフライマンたちがあちこちに入渓している。
水量が少ないようだ。
GWに入ってからまとまった降水がないとか。
さて、とりあえずここから40分ほどの林道歩き。
路肩には5~6台ほどの釣師と思しき車が駐車されている。
新緑のまぶしい林道は、ところどころ補修され歩きやすくはなっている。
思えば昨年の8月にここにきてアプローチ敗退した時の林道の状況はすさまじかった。
台風一過の翌々日で前夜天川温泉の駐車場で車中泊したが夜中も激しい雨が一時降っていた。
早朝に雨も上がり大川口から林道に入ると、路肩の崩壊、落石が道幅を狭め、愛車が軽のワンボックス
で良かったと思いつつさらにオソゴヤ谷出合の橋を渡りかけたところでついに1車線のみの道路が
路肩崩壊で0.5車線となり万事窮す。しゃーない、少し戻って脇に止めて徒歩で林道詰めて入渓すっか・・・と思ったその目の前に
左岸の絶壁から落石がおっこってきて、青くなって鬼バックで逃げ帰ってきたトラウマロードである。

今日は微風快晴の元、新緑の芽吹きと涼やかな沢音を愛でながらの散歩道。
まこと快適。
歩き始めて40分ほどで林道終点となる関電測量所についた。
この先の橋の下から入渓してみる。広い河原に腰かけて眼前の大峰ブルーの水に目を細める。
いや、ブルーというより、限りなくコバルト。
石灰岩と花崗岩に磨かれた澄み渡った水。
車両通行止めということもありここまではまだ釣り師も入っていないようで
アマゴが盛んにライズしている。沢支度もそこそこにテンカラを引っ張り出して
ここで小一時間も遊んでしまった。あれだけライズしていたが、22㎝を1尾抜いただけ。
腕ですな・・・・・
さて、そんなこんなで気づくと11時。計画よりも早く入渓できたとはいえ
あんまり遊んでいては押してしまうだろう。
初めてのルートで何があるか予測がつかない。余裕をもって行動開始。

沢支度を整えてよいこらしょっとザックを担・・・ぐ前に
いつもの儀式。

上流に向かい2礼2拍手1拝。

『山の神様、今日明日、遊ばせて頂きます。なにとぞよろしくお願い申し上げます』

①で、いきなり淵。
(あとから遡行図を見たらこれはトガ淵といい、通常は左岸に途中までつけられている
関電の巡視用桟道を使って巻くらしい)
右岸に取り付いてへつろうか左岸でへつろうか観察したが、右岸に取り付くのも一発泳ぐようだ。
左岸の足元は見るからに滑りそうな磨かれたナメ状。これは泳ぎしかあるまいと
腹を決めてザックのベルトを外し片担ぎにして泳いだが・・・・・
うーん。。。。。
重くて進まんwww
何度か押し問答やってるうちに途中で先の方の左岸に伸びている桟道を発見。

なんだよ(笑

てなわけで戻ったとこの左岸の浅い谷筋にかかる桟道に乗り込んでさっくり巻いた。
とりあえず桟道がどこまで続くか見てみようと歩いたが、トガ淵を巻いた先50mほどのところで
崩壊しており降りれない。仕方なく少し戻った斜面から再び入渓。

しばらくは魚影の濃いアマゴを追い立てながら足を進める。

②まもなく谷は右へ曲がりゴルジュ『へっついさん』が現れた。
最近の情報では淵をかなり砂利が埋めていて浅くなっているとのことにてそのつもりで
入り込んでみると胸までの水位がある。きいてないよw
流れはゆったりしているし、足元まできれいに見えるから不安感はなかったが。
一発目の泳ぎ、そして胸まで渡渉でたっぷり水につかった。
既に雪代は消えているとはいえ、やはりそこは深山幽谷の大峰。
冷たい。とにかく冷たい。

③谷は再び左への展開を匂わせたがその入り口に落差5mほどのナメ滝が
不気味な縦渦を深そうな淵に落としながら佇んでいる。
手前からナメ滝の右岸に乗り越さねばならないが、そこへ渡るには3mほどの
わずかな泳ぎを入れねばならない。
意を決してなるべく対岸に近いところまで勢い付けていけるように飛び込んだ。
ザックの重みが一瞬効いて鼻まで沈んだがすぐに浮き上がり対岸の滑りやすい
壁に手がかかる。わたり切った先はこれもナメているが足場があり、そこを絡めて
ボルダーチックにマントル返しながら滝をずり上がる。
スローパーなホールドをきわどくプッシュしながら滝上に出ると乗り越した上の右岸にトラロープが張ってあった。
あるものは、使う主義です。

④やれやれよ。としばらくはゆったり水線漫歩していくつか小滝を超えると
高い側壁の出口あたりに噂の赤鍋の滝が見えた。
左岸をへつり登る。
広い釜の左岸を腰までつかってへつりながら、左上する手がかり足がかりを探る。
微妙な凹みと乾いた面にじんわり乗り込み、フリクションをじっくり効かせながらの歩み。
手を伸ばすと確かに浅いクラックが左上しており、手がかりとしては素直にコイツ
を使えばよいが、足は相変わらず悪い。滑ったら手がかりはバランス程度の浅さなので
間違いなく滑り落ちてドボンだろう。
半分まで上がったところで残置ハーケンが見えた。
シュリンゲを掛けて大股で乾いた縦のジェードルにある足場に左足親指だけで乗り込む。
これだけで姿勢がかなり安定してそのまま上に行くラインが見えた。
あとはスリップに注意しながらシュリンゲをはずし、上へ。

ふぅっと、一息。
周囲は疎林で仮に撤退するとなれば滝上にハーケン打って残置しなければ降りれないだろうな。
となると、さっきのナメ滝の下降も含めるとハーケンもある程度枚数いるだろう。
単独では撤退の難しいところまできた。
ここから先は、とにかく上り詰めるのが最も安全ということになろう。

⑤釜滝。このすぐ上で谷は犬取谷(左)とノウナシ谷(右)に分ける。13:00

言葉が見つからない。直径2~30m以上あろうか。広い釜に落差8mほどで2条になり
滔滔と落ちる水は木漏れ日の下で釜の中にあそび、陽光の強弱に合わせるかのように
色を変えてゆく。
どこまでも澄み渡る静かな淵の中には尺はあろうかというアマゴが悠々と何匹も遊んでいる。
ここ。この光景を見るためだけに、この谷に来た。といっても過言ではない。
まさしく『桃源郷』とは、この目の前の光景のためにある言葉なんだ。
桃源郷。ここは桃源郷。

言葉にならぬ美しさを収めようとケータイを取り出した時
初めてただならぬ事態に気付いた。
ジップロックに水がたっぽんたっぽん入ってますwww

ジッパー、あいてました(爆

うん。で、予想通り
うんともすんとも言わぬ。

しばらくフリーズしたのは未だ5月初旬の泳ぎの為ではありません。

そして私は、こう考えることにした。
今日、初めてここにきて、文句ない好天のもと
これだけ素晴らしい光景に出合えたのは、山の神様のお導きだと。
そして山の神様はこう言ったのだ。
『あんなー、アレやねんけどなー、今日は特別にめっちゃエエもんジブンだけ見せたるさけ、
ほんま特別やで。せやからなー、こっから先のことは写真とか撮らんと、ジブンの胸にしっかり焼き付けぇや。他のモンは見たかったら頑張ってココきたらええねん。』

そうです。そうですよね、神様。
ひよっこ沢ヤ、頑張って独りでここまで来ました。
ご褒美なんですよね。うん。
ほんまありがとうございます。

でもね、一つだけ、いいっすか?
こっから先とおっしゃいますが
ここまでのデータも全部アジャパー(古ッ)っすわ・・・・

おいちゃん、悲しいからアマゴちゃんと遊ばせて頂きましょう。
テンカラをふりふり。
ふりふり
ふりふり
ふりふり
ふり・・・
ふ・・・・・・・

一時間、体がすっかり乾くまで粘ったが
遊んでくれたアマゴちゃんは1尾だけ。
腕悪い。

今年はマヂで釣り修行の入渓をメインにしたくなった。

とはいえ、今回は遡行で峰越えが目的。
小一時間遊ばせて頂いた釜滝に2礼2拍手1拝。
左岸から小巻に上がって釜滝を辞した。

しばらく平凡な渓相の中を進む。
陽は高く、新緑を透けてこぼれてくる光が空気をグリーンに染める。
ゴーロに生した苔と相まって、緑の海を泳いでいるかのようだ。

ほどなく
⑥奥の狭まった廊下の先に一ノ滝が現れた。
廊下の水位は深そうだ。ヘツリ泳ぎで取り付くことはできるだろうが
なんの迷いもなく左岸小巻一択。

⑦一ノ滝より落差のある二ノ滝。
左岸巻き。巻きルート自体は簡単なのだが、意外と高度感があるうえ
まださほど今シーズンは踏まれてないだろう、落ち葉の堆積が
足場をいやらしくしている。一歩一歩、落ち葉をどかしながら慎重に足を進める。
キョウイチで緊張しただろうか。

⑧幕場
巻き終えると歩きにくいゴーロが続いており
少し先に左岸から入るレンゲ辻谷を合わせる広い河原があった。
このすぐ上まで偵察したところ、2mほどの小滝を越えたすぐ上の左岸に
万一の逃げ場になる緩斜面を控えた、ちょうど一張り分の広間があり、沢床よりも1mほど
高くなっている。上流側に巨岩が鎮座しており沢嵐もある程度回避できそうな理想的な状態だった。
早速にタープを張る。軽く土木工事をした広間に
コーナンで買ったブルーシートを『瀬畑式』で設営する。
張り縄は太めのジュート紐Byコーナン。
快適すぎる。やばい。ホテルだホテル。
さて、薪。
数日間雨の少ない状態で、周囲に散らばる倒木や枝は乾いている。
しかも豊富だ。焚火でいうところの『ご神木』もころあいのものがあった。
ホテルの前にうずたかく積み上げ、下流側で火を焚き始める。
ジュートをばらした物を着火剤にしてあっさり着火。乾いた小枝は勢いよく燃え始める。
この調子で夜明けまで火を絶やすことなく、温かく過ごした。
暗くなる前に、米を炊き、みそ汁を作る。
メシは、シンプルで良い。余計なものは、なくてよい。
家から持ってきた米は目の細かい洗濯ネットに移し替え擦るように研ぐ。
便利だ。乾燥キクラゲを戻し蕗と共に軽く湯がき味噌を入れる。
1尾だけ、確保しといたアマゴに塩をして焼く。

やがて夜のとばりは降りた。
食後の酒を。ニッカ黒ひげの小瓶。
ふたを開け、ふたになみなみと最初の一杯を注ぎ、上流に向かって捧げる。
そして、焚火を眺めながら、少しずつ、なめる様に楽しむ。

何も、考えない。
目を閉じる。
どこからか、篠笛が聞こえる。
シカの鳴き声ではない。すこし低く、メロディーになっている。

当然、稜線の遥か下の谷底。そんなものが聞こえようはずがないのだが、私には聞こえた。
幻聴かもしれないが、それでも良い。
不思議と、怖さはない。
いや、むしろ、ほほえましくさえ感じた。

神童子が、来たんだな。

そう思った。

⑨二日目
明け方4時過ぎると東向きの谷は新しい一日の気配をうすい靄の中に漂わせ始めた。
熟睡した。
焚火の熾きに小枝をついで火を起こす。
ホテル『ブルーシート』を解体し、畳む。切り落としたジュート紐と柱を火にくべる。
昨夜の残り飯をみそ汁に突っ込みクツクツと煮る。
軽い朝食でしっかり腹も満ちた。

昨夜聞こえたあの篠笛の音を思い出しながらパッキングをする。
燃えかかっている物は、すべて燃やし尽くす。白い灰になるまで。
茶を飲み、クソをする。

ゆるりとクソをたれながら見上げる空は、靄がだんだんに晴れ、
今日も良い天気だ。

穴を掘り、落ち葉と共にクソを埋める。
俺の分身はやがて木々の冬枯れの分身と渾然一体となり
生命の輪廻に再び分け入るのだ。

AM06:05
行動開始。ゆるっと行こう。

⑩20分ほど犬取滝に出合う。
行く手を遮る20m以上の直瀑。
周りを高い壁に囲まれ、その壁の切れ目からどうどうと流れ落ちる神の路。

右岸を巻く。
落ち葉に覆われた泥付の急斜面を、まばらな灌木とチェーンスパイクを頼りに
上り詰めると落ち口のチョイ下くらいの高さで険しい側壁に阻まれ、巻戻される。
尾根を狙ってトラバース気味に巻き上がる。
側壁が切れたところで、下流の右岸に合わさる急峻なガレルンゼの側壁の上に出る。
下に切れ落ちた右壁と行く手を阻む左壁の間を注意深く進むと左の壁が切れて
尾根を上流側に抜ける。落ち口15m位上のところでコンタを読み、斜面を観察しながら
モンキー気味にザレ交じりの斜面をおりる。

少しづつ傾斜の上がって来ているゴーロの谷筋を、浮き岩に注意しながら歩を進める

⑪ジョレンの滝は、もう目の前にあった。
落差合計60m。左岸に20mほどの雫滝を従えたその神々しいまでの雄姿は
旅のフィナーレを飾るにできすぎなほどドラマチックであった。
3段に分かれているのだろうか?最上段の落ち口は見上げた遥か頭上から
まるで紺碧の空を割って水をほとばしらせているかのようだ。

ただただ、言葉無く、手を合わせ、この白銀の昇り竜を拝んだ。

昨夜の神童子は、この竜の背を滑り降りて遊びにきたに違いない。

⑫旅の終わり
ジョレンの滝も右岸を大高巻きする。
犬取滝といいこの滝といい、今シーズンはまだあまり踏まれていない巻道は
落ち葉に埋もれている。たまに枯れたようなテープをみつけ、それらしい踏み跡を見ることが
できたが、基本それも途中ですぐに見えなくなり完全に現場ルーファイになる。
そう難しくないが喘ぐような急登りを大きく巻き越えたその先で水は徐々に細くなる。
滝上で09:40。
少々時間を食ってしまったが、ここからはさしたる困難もなさそうなので
改めて気を引き締めて詰めに入る。
簡単な小滝が連続する、大樹に彩られた原生林を逍遥する。
やがて、両側の尾根の斜面に熊笹とシャクナゲが見え始めると源流の旅は終焉を迎える。
Co1500あたりから適当に左側の尾根に乗り、熊笹のゆるい斜面を歩くと
ひょっこりと稲村小屋の横に飛び出した。
AM10:30

安堵の溜息は、山上辻を渡る風に乗り、神すまう山並に消えていった。

PM13:00
洞川温泉に下山

山行終了。