2015.09.19~09.22 大峰 北山川水系前鬼川孔雀又谷右俣遡行~明星ヶ岳(前編)

旅。

沢をたどり
稜線を歩き
嶺の向こう側へ抜ける。

山並に隔絶された此方と彼方を自らの足で結ぶ。

縦走ではなく、登攀ではなく。

旅。

旅がしたかった。
幕営装備を担ぎ、短くはあるが山中にかりそめの庵を結びながら「山で生きる」ことの
実践に、私は私なりに登山行為の意義をみる。

年内にとれるまとまった休みとしては最後だった。
冒頭で述べたようなスタイルの山旅は、単独の場合車のデポなどできないので
当然公共交通機関になる。

公共交通機関でのアプローチが悪い北山川水系をターゲットに大峰を西に越えるという
ルートを取るなら、このシルバーウィークが最後のチャンスであった。

直前まで池原まで足を延ばし、池郷本谷上部まで分け入り嫁越~西へ下って滝川赤井谷を千丈平か
迷っていた。

最後はガイド本のグレードで決めたというのもなんだか俗っぽいが
この際だから中級と目される沢をきちんとやっておこうとの思いから前鬼川に。
それに巷間で噂の前鬼ブルーは是非に見ておきたい。

【山行実施日】2015年9月19日(前夜発)~9月22日
【天候】晴れ(20日)。遡行開始時気温:覚えてません
【メンバー】Chanko,単独
【装備】フェルトソール・8x30mロープ・三つ道具

藤井寺から近鉄で上市へ。
30分ほどの待ち時間で大淀バスセンターから数人のおばあちゃんを乗せた小さなバスが
とことこやってきた。
16時半。好天の一日は赤い夕陽の最後っ屁で山を照らしながら暮れゆく気配を匂わせる。
のんびりとしたおばあちゃんたちの会話を車内に漂わせ
バスは川沿いの国道169をすすむ。
杉の湯で長い休みをとったあとふたたび下桑原方面へ動き出したバスは
18時40分頃に前鬼口のバス停で私を降ろした。私は、最後の客であった。

林道入り口の「かどや」の軒先に灯るすすけた明かり以外の灯はない。

ヘッデンをつけて、ここからとにかくできるだけ入渓点に近いところまで今夜は進み
幕とすることにした。

ときおりテンが闖入者の様子を伺いにちろちろと遊びに来る。

1時間半あるいただろうか。
不動滝への降り口を分けてすこし上に行ったあたりに
焚火が見えた。
ちょっとほっとしたし、焚火があるということは適地なんだろう、面倒だし畳一枚分でも
スペースがあれば同宿お願いしようと近づいて声をかけた。
※びっくりさせてごめんなさい

林道の谷側に張り出した台地状の駐車スペースに車を停めて焚き火を肴にしていた二人の男性のご厚意に甘え焚き火に当たらせていただき、ビールをご馳走になった。

揺らめく炎

満天の星空

W田さんとK下さんは大峰の溪をあちこち渡り歩き写真を撮るのがご趣味。
この日も滝川から転戦し明日前鬼に入られると。
往年の凄腕クライマーであるW田さんと山談義、
大峰の沢を釣り歩いているK下さんとの釣り談義に花が咲き
気付くともう午前0時を回ろうとしていた。

風上側に車を置いた焚き火との間に
寝床をしつらえさせていただいた。
降ることはない。幕は要らない。
満天の星空が天幕。

滝の音がゆっくりと遠くなっていった。

翌朝目覚めると空高くうろこ雲が遊弋していた。
気温もさして低くない。絶好の沢日和か

御二方はまだ車の中で眠っているようだ。
一宿のお礼に先ずは焚火の熾きを目覚めさせる。

ほどなく車から出てきたW田さん、K下さんとお茶を飲んで一服してから、先に泊地を辞した。
お世話になりました。
ありがとうございます。

黒谷出合上部の入渓点まで林道をたどる。
どうどうと流れ落ちる不動七重の滝下部を望む。

整えられた林道終点がちょうど入渓点であった。

沢床に降りてみたが、まぁ
あまりぱっとしない。

沢支度を整え、清冽な水を手水に浄め、いつもの儀式
2礼2拍手1礼

山の神様、今回も無事に実りある山行ができますよう、御見守りください。

黒谷をまずは降渓する。本流の出合まではすぐだ。

エメラルドの輝く流れを漫歩する。

渓は麦に大きく向きを変え、そのとば口に2段10mが懸かる。

右手から簡単に登ることはできる様だ。
ただ、この落ち口で左岸から右岸への渡渉があるという。問題は水量と水勢だが・・・・
しばし思案しているとW田さんとK下さんが追い付いてこられた。
W田さんの見立てでは本日の水量では落ち口渡渉はリスク高いので
すこしもどった左岸から巻き上がるという。
わたしもご一緒させていただいた。

巻道は左岸の泥付ルンゼの右岸に「これか・・・?」と思しき踏み跡があったが
登りきる手前で崩れており腐った倒木が浮いている。
「こりゃぁ嫌らしくなっちゃったもんだなぁ・・・」と
W田さんがロープを引いて先行しK下さんを確保してあげたあと、
私はW田さんがしっかりした灌木にワンポイントでかけてくれたスリングを掴んで重荷を
背負った体を引き上げた。

左手に滝の落ち口を見ながら巻いていくと
「なぜわざわざ落ち口で渡渉するか??」という理由がよく分かった。
滝の右手岩場を這い上がったところですぐに立った岩場に阻まれその先が淵となっている。
抜けても岸が絶妙にナメており足場が悪い。対してあちら側の右岸はまだ足元がマシである。
問題はやはり渡渉ポイントの水勢と、沢床がナメているので下手をすると水に持ってかれて
しまうことだろう。

巻いた先の急斜面をちょっとした懸垂下降で降りて沢床復帰。いずれにしてもこちら側は
ナメた傾斜のある岩盤なので右岸に渡渉をするのだがひざ下程度の渡渉で済むので落ち口よりは
遥かに安全だ。

わたり切って上流を見ると左にカーブしながら渓は極上のナメを連ねる。

ここで、この極上のナメでの撮影をお目当てにやってきた御二方とは再びお別れし、
私はさらに歩みを進める。

ありがとうございました。

栃の実が、ポットホールの中で踊っている。
実りの季節を感じる。

やがて右岸から三重滝の合流点が見えるあたり、あまたの湧水が本流に合わさる光景は
壮観である。

湧水の清冽さに現れながら左岸をたどると三重の滝に上る登山道と合わさり
垢離取場に導かれた。

一本立てながら、沢日和のお恵みに深く感謝。
淵に身を沈め拝む。

深仙谷を分けると目の前に五百羅漢を従えて神座とも言うべき岩塔がそびえていた。

夜になると神様が戻ってくるのだろう。
そろそろ幕場を探すことにしよう。
Co880で孔雀又左谷を分けてからすぐに植林小屋跡が右岸にありその
すこし上に聖地が必要ないくらいのおあつらえ向きな台地があった。
すぐ上手に大きな岩があり、夜半の沢嵐も避けられるうえ
後背は傾斜の緩い斜面になっている。
沢床からは1m以上の高さもあり薪も周囲には豊富だ。
ここまで実際は思ったよりも時間がかかってしまった。

先ずは薪を集め、幕を張る。

一服

飯を炊く

シンプルで贅沢な時間が流れてゆく。

独り
吾れ渓中に在り。

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