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2015.10.24 南紀 熊野川水系小口川 滝本北谷遡行

南紀。

遠い。

ガイド本では大阪からのアプローチが5時間とされている。
熊野川水系小口川源流域。

奈良の五條からR168を十津川沿いに延々と走らせ川の名前が熊野川と変わる
熊野川町日足の集落で県道44号に入り方向感覚がなくなるようなつづら折りの山道を
さらに1時間。
地図を見ただけで単独での山行を想像すると滅入る。

絶悪なアプローチを越えたこの深山幽谷に
平家の落人が隠れ住まっていた。

追手から逃れ逃れてやっとのことで見つけた安住の地に
敗残の彼らを慰めた何かがあるのだろう。

この24日~25日、滝本の北谷と本谷へのお誘いをいただいたとき
単独では足の向ける気がしなかったこの南紀の隠れ谷に行ける千載一遇のチャンスとばかりに
乗ってみた。

【山行実施日】2015年10月24日
【天候】雨のち晴れ。遡行開始時気温:13度
【メンバー】Chanko他4名
【装備】フェルトソール・8x30mロープ

 

23日PM20:00
近鉄喜志の駅でK谷さんとTN崎さんにPick Upしていただき、まずは
富田林のスーパーで買い出し。それぞれめいめいに3日間の酒と糧秣を整える。
五條を過ぎてR168をうねうねと遡り途中2か所ほどダムサイトで休憩を入れながらも
23:30にはBCとする道の駅 瀞狭熊野川に到着した。
ささやかな入山祝いをしているところにAM1:00頃 E崎さんとY中さんが到着。
AM02:00には就寝し、翌朝AM07:00出発として幕中にめいめい潜り込んだ。

夜中、そぼ降るような雨が空気を湿らせる。

翌朝、垂れこめた低い雲が空に乳白色の幕をかけていた。
すっきりしない天気ではあるが崩れる予報ではないので朝食のあとBCを撤収しまずとにかく
出発。日足集落手前から県道44号にのり延々と1車線の道路を小口川に沿って走る。
1時間で滝本の集落についた。

廃校になった滝本小学校と発電所の中間点当たりの5~6台は止められる駐車地に車を止め
身支度を整える。

08:30頃、駐車地を出発

アプローチの道沿いは秋の気配

夢のあと

引土橋の手前から小学校のわきを抜け、林道に入るが、林道は荒れており車両通行止め。
時折大きな崩壊が迫ってきている。

40分ほどで林道の終点になるが、すぐに大釜を従えた筆藪の滝が眼前に。

K谷さんは釜を泳いで滝身の右側に取り付く。
私は釜を大きく右から回り込み左岸の側壁をトラバースしてとりつく。
中段のテラスに乗り込んでから後続を肩がらみで引き上げる。

K谷さんも上がってきたのだがここからが悪い。
ロープを出してTN崎さんがTOPで突破しK谷さんが続く。
私もロープを出してE崎さんを確保。E崎さんに突破をお願いする。
E崎さんの突破を待って中間八の字でY中さんが続く。
私はラストで回収しながらなんとか落ち口チョイ上にたどり着いた。
ここでいきなり1時間かけてしまった。

乗り越してしばらくは巨石に苔むしたゴーロが続く

やがて本流が大きく右に曲がるその正面に越前谷から落ちる猿手滝がかかる。

本流にかかる部屋滝は両岸を険しい側壁に囲まれた瀑布でまったく手が出ない。
巻きあがる前にしたから釜の前まで出て様子をうかがう。

猿手滝手前まで戻り本流右岸を巻きあがる

と、ナメに飛び出した。

うねるような変化がある、美しく楽しいナメの感触を楽しみながらひたひたと歩む。

そろそろ日が差してきて右岸の側壁が青空を指すさまも雄々しく見えるころに

さらり、とろりと流れる溜湾殿滝。
釜の淵で昼食とする。

昼食を終え、溜湾殿滝を左岸から小巻にあがる

苔むした取水口の跡を左岸に見る。

ゴーロ帯のインゼルを辿りながら進むと見事なケヤキ原滝が現れた。30m。

ついさっき昼食を取ったばかりなのにまた一本立てる一行・・・・
右岸を巻きあがる
ちょっとしたナメのあとすぐに屏風滝。浸食された釜の深さに驚く。

右岸の踏みあとを巻きあがり

再びナメのあと

亀壺の滝

左岸から巻きあがった上が再びナメ。

側壁は早くも傾き始めた陽に照らされてきた

長い長いナメをひた歩むと

やがて遡行終了点の取水堰に行き当たる。

ここでコーヒーブレイク

午前中の雲はすっかり消え、明日に期待を持たせるような秋の青空が高く広がる。

この取水堰からは水路の上の巡視道を行き、南側の尾根を乗り越し

ホタバ谷に沿って再び水路の出口わきに飛び出す。
この出口が滝本本谷の出合いとなるのだ。

本谷を下降しながら左岸の踏みあとを辿ると
分岐の案内表示が出る。

大べら上道方面に本谷川を渡り本谷右岸に沿った踏みあとを辿りながら
ナメラゴ滝上の巡視道を伝い下山。

これがかなりわかりにくかった。
途中から踏みあとが消え、本来であれば本谷の燈明滝を巻き下ってから再び降渓し平維盛住居跡すぐ下
右岸の発電取水口から再び整備された巡視道に入るのだが、我々は不明瞭な斜面でのいやらしいトラバースを続け陽も暮れかけたころに本谷のコッペ滝右岸斜面から、ようやっと20mほど眼下に巡視道を見つけることになった。

結局、きれいで歩きやすい道ではあるが
予定外のヘッデン下山となってしまった。
ともあれ、美瀑・豪瀑とナメが連なり変化にとんだ南紀の渓をこころゆくまで満喫。

南紀、侮りがたし。

山の神様、ありがとうございます。

 

2015.10.11 台高 宮川水系 大熊谷第2支流(東俣谷)遡行 

9月から大阪のとある沢登り専門(?)の山岳会の山行に出入りするようになっている。

これから先も長く沢を愉しんでいこうということになると、当然今の自分の技術レベルのブラッシュアップも必要だしそれ以前に自分自身の技量を客観的な評価に照らしていくことが必要ではないかと常々考えてはいた。今回はその会の方々と初めて沢に入ることとなった。

「台高の東俣谷」という連絡があったのは10月7日だった。
ガイド本に載っていない谷の名前なのでスマホで検索して記録を当たってみると
KU会と「さわナビ」の記録ぐらいで遡行記録は検索結果の1P目くらいしかない。
しかしながら、かの「さわナビ」では

『2本の大滝には絶妙の巻き道が付けられているがそれ以外の場所は両岸高い壁でルート取りを間違うと厳しいものがある。それと前半に出てくる2段30M滝は下段は登れても必ず先で詰まるので最初から無理せず巻いたほうが無難だろう。遡行難度は2級+程度だが台高らしさを遺憾なく発揮しており、お勧め度は最上位に値する名渓だと思う。』とある

お勧め度、最上位。

沢の味わいを酸いも甘いも嚙み分けた、あのさわナビの管理人 亀さんをして
こうも言わせる秘めたる魅力に否が応でも期待は高まる。

10月10日夜22時、子供たちを塾に迎えにゆき自宅で下すと

渓道楽親父はそのまま車を一路集合地へ走らせる。
今回ご一緒する YS田さんとYN田さんはすでに集合地点である
カラスキ谷公園駐車場で小宴の最中であろう。
自宅のある大阪は八尾から近畿道⁻南阪奈道を経て166号で高見山をくぐり三重の飯高町に入る。
栃川で422号に入り湯谷川沿いに走る。
栗谷口で鋭角に転じ宮川沿いに遡ること20分、
カラスキ谷公園駐車場には0:20頃に到着した。
丁度YS田さんとYN田さんは車中泊の準備をされていた。
公園駐車場は他の登山者と思しき車も含めいっぱいになっていた。
※このパーティが関西の沢では高名響く『R畑さん(囲炉裏)』のパーティだと翌朝知った。

なにはさて、私もYN田さんの車の後ろに駐車させていただき
車中泊の準備整え入山祝いの一献。

後ろのハッチを開け、しとしととした秋雨のまとわりつくような冷気に
身を清める思いで静かに盃を重ねた。

翌朝は明け方まで昨夜からの雨は少し残っていたが、眼前の宮川には増水も濁りもなく
まったくの平常コンディションと思われる。

 

【山行実施日】2015年10月11日
【天候】雨のち曇り。遡行開始時気温:覚えてません
【メンバー】Chanko,YS田さん(他会)、YN田さん(他会)
【装備】フェルトソール・8x30mロープ

朝食を済ませると、私の車は駐車場に置いたまま
YS田さん車とYN田さん車で一本西にある水谷に沿った八知山林道のCo520の橋まで車を一台
デポしに上がった。

YN田さん車をデポし、YS田さん車で入渓点へ。

入渓点対岸が即駐車場。
まったく無駄がないアプローチ。

渓に入るとのっけから小滝が連続する。

くの字2段15mは水線右を快適に

2段30mはツボすぐ右岸から木の根をつかみながら簡単に巻く

やげて見えるは不動滝2段60m

左岸を巻く。わかりやすい。落ち口の高さで左にトラバースする踏みあとを拾うと
ドンピシャで落ち口に。

まるで、真っ白な宇宙に水が吸い込まれていくような不思議な光景。

20分ほどで次の大滝、夢幻滝3段50m。

右岸ルンゼより巻く。
途中1手2手がすこしいやらしいが
抜けて右へトラバースするとこれもドンピシャ落ち口である。
YS田さんと『巻きまでムダなしとは、この渓、恐れ入った!』と笑う。

滝上しばらく開けた自然林の疎林だが
ほどなく両岸が立ってきて高い嵓に押しつぶされたような廊下に入る。
廊下の奥には見事な巨岩がインゼルのようにはさまったチョックストーン滝が落ちていた。

右手から落ちる滝の滝身右手を苔に注意しながら登り

滝上に出る。

山仕事の小屋跡がありCo540の二股で左股を選ぶ。
苔はさらに深く、鮮やかな緑

源頭の趣を感じさせる渓を歩く

水枯れ寸前のゴーロで一本立てる。
上に白く見えるのが、路肩が崩れた林道。

入渓3時間で林道へ退渓。Co850

Co885あたりで林道をはずし
南東へ流れる尾根芯を拾いながらつづら折りになった林道のショートカットを狙う。
270mを下る。

退渓から1時間ほどで車をデポした水谷橋へ。

車をデポすることで長い長い林道歩きの必要もなく
入渓から退渓までコンパクトな中にぎっしりと楽しく美しい要素が詰まった渓でした。

紅葉はまだ走りでしたが深まった時にもう一度来たい。

それだけではなく、新緑の頃、シーズン前の足慣らしにぴったりですね。

しみじみ、良い渓でした。

山の神様、ありがとうございます。

 

2015.09.19~09.22 大峰 北山川水系前鬼川孔雀又谷右俣遡行~明星ヶ岳(後編)

アメシ谷下の右岸に張ったツェルトの下で目覚めると既に下手の幕場にビバークしていた
4人パーティの炊煙が立っていた。6時半。

のそっと起き出して焚火の燠を起こす。

昨夜の残りメシに味噌を放り込み、沢水でゆるくして雑炊のようにして温める。

梅干しをしゃぶりながらもそもそ食べていると、下のパーティが

「おさきに」と上がっていった。

ツェルトをたたみながら見上げた空は高曇り。

風はない。

暑くも寒くもない快適な気温。

ツェルトとシュラフをたたんでザックに押し込み、まだ冷たい靴下を

焚火にあてて温めているうちに、マットの上で寝入ってしまった。

再び目が覚めたのは8時(笑)

こりゃさすがにいかんな。

こんどはそそくさと荷をまとめ、装束を整えて出かける。

いくつかの小滝をやりすごしながら進むと谷の両岸はやがて高い嵓が目立ち始め
大きな滝の予感を漂わせる。

15mないが、なかなかに立派な滝が行く手をふさいだ。
滝身左手のブッシュのコンタクトラインを登れなくもないが
右岸にすぐ階段状のルンゼが落ちているので、狭いとこ好きな私は
迷わずこのルンゼを登って巻く。

続いて、20mほどはある立ったナメ滝

滝身周辺は手が付けられないので、これまた右岸のルンゼに活路を求める。
このルンゼは落ち口チョイ下くらいの高さで右手からガレを入れている。
このガレに転じてから小尾根のようになった地形を乗り越すと、容易に滝上に出た。
緩い斜面にミズナラやブナ、ヒメシャラが茂る明るい林。

右手に見える沢床は傾斜を増して巨石が積み重なっている。
重荷背負ってボルダーをウロウロするのも煩わしく、巻いたままの斜面を
トラバースしながら高度を上げてゆくことにした。

階段状30mに差し掛かる手前で谷は伏流の様相を見せ始める。
ここで、詰めに備えペチャポリに水を満たす。
やがて見えた階段状30mは快適。

ぬめりにだけ気を付けながらワシワシと登ってゆくと
規模の大きな崩壊地に飛び出す。
右岸からも左岸からもかなり大規模にガレが押し出してきている。

日が差してきて白い岩肌に反射する。暑いくらいだ。
最後に40mが見えた時には少し日が陰ってきていた。
この滝は「枯滝」とガイドブックに書かれていたが

あれ?

しみ出し以上に水が流れている。

乾いたリッジ状を選んで登る。先ほどより少し立っているが、手足豊富。

最後は水枯れを確認し、左岸の尾根からさらにもう一つ向こうの尾根に
トラバースし、

退渓、詰めに入る。
ふか、ふか、とした苔が足に優しい・・・・

ひと登りして12:30、孔雀岳北の稜線上、奥駆道に抜けた。

霧が濃くなっている。風は緩やかで、かえってこの霧を幽玄に漂わせる演出
まずは1本立てる。旨い。

大休止しながら装束を解き、トレッキングシューズに履き替える。
さて。
本当は昼前にここに抜けて今夜は狼平、と決めていたのだが
時間も2時間押し、それに意外と疲れてしまったのと、なんだか股ズレが痛くて
そんなこんなでかなりめんどくさくなったので
時間は早いが、ここから北に一番近い楊子ヶ宿小屋で泊に予定を変更することにした。

14:30に到着した小屋は非常にきれいな小屋であった。
私が入った時には先行は1名。この小屋と行者、狼平らの3つの無人小屋を
ボランティアで月に一度整備して回っている横田さんが入っておられた。
やがて三々五々と登山者が集まってきた。

単独者同士の静かな語らいと、鹿の鳴き声、ろうそくの炎のかすかな揺らぎ。
小キジを撃ちに外に出ると、雲が切れた空は張り詰めた空気をまとい
漆黒のスクリーンに満天の星をちりばめていた。

流れ星、ひとつ、ふたつ。

残った酒を干しシュラフに潜り込む。

夜が明けた。

昨日の時点で、今日、明星ヶ岳から天川河合に降りる腹で居たので
朝をまったりと過ごすことにした。

宿泊者はそれぞれに小屋を後にする。

お世話になった同宿の方々と。

ありがとうございました。

私は少し残って、預かったごみを小屋前のファイヤープレイスで燃やして処理する役を
買って出た。

朝露がさわやかに輝いてるうちに稜線を歩き出す。

七面山南壁が見える。

秋の空は高いなぁ。

お。迷平

明星ケ岳手前で東側からガスが上がってきた。

ガスで眺望がないことを嫌う人も多いだろうが
私はガスあってこその大峰だと思っている。
てか、ガスのない大峰なんて、大峰じゃない。

明星ヶ岳を西側から巻き、弥山辻からよく整備されたレンゲ道を
ゆるゆると下る。
奥駆道が修験の道であるなら、このレンゲ道はかつてこの背骨のような山脈を
横断する生活の道であった。

シラビソの南限となる学術的に貴重な樹林帯でそうです。

標高を下げると、どこか人懐かしい雑木林の趣に。

山道はやがて崩壊した坪ノ内林道に沿って下り
門前山から一気に河合の集落に駆け下る。
役場の上手の橋を渡り

短い旅は、終わった。

洞川温泉に立ち寄り、旅の垢を落とした後

アメノウオで旅の余韻に浸った。

大峰の奥深さに、しみじみ、魅了された旅となった。

山の神様

ありがとうございます。

2015.09.19~09.22 大峰 北山川水系前鬼川孔雀又谷右俣遡行~明星ヶ岳(前編)

旅。

沢をたどり
稜線を歩き
嶺の向こう側へ抜ける。

山並に隔絶された此方と彼方を自らの足で結ぶ。

縦走ではなく、登攀ではなく。

旅。

旅がしたかった。
幕営装備を担ぎ、短くはあるが山中にかりそめの庵を結びながら「山で生きる」ことの
実践に、私は私なりに登山行為の意義をみる。

年内にとれるまとまった休みとしては最後だった。
冒頭で述べたようなスタイルの山旅は、単独の場合車のデポなどできないので
当然公共交通機関になる。

公共交通機関でのアプローチが悪い北山川水系をターゲットに大峰を西に越えるという
ルートを取るなら、このシルバーウィークが最後のチャンスであった。

直前まで池原まで足を延ばし、池郷本谷上部まで分け入り嫁越~西へ下って滝川赤井谷を千丈平か
迷っていた。

最後はガイド本のグレードで決めたというのもなんだか俗っぽいが
この際だから中級と目される沢をきちんとやっておこうとの思いから前鬼川に。
それに巷間で噂の前鬼ブルーは是非に見ておきたい。

【山行実施日】2015年9月19日(前夜発)~9月22日
【天候】晴れ(20日)。遡行開始時気温:覚えてません
【メンバー】Chanko,単独
【装備】フェルトソール・8x30mロープ・三つ道具

藤井寺から近鉄で上市へ。
30分ほどの待ち時間で大淀バスセンターから数人のおばあちゃんを乗せた小さなバスが
とことこやってきた。
16時半。好天の一日は赤い夕陽の最後っ屁で山を照らしながら暮れゆく気配を匂わせる。
のんびりとしたおばあちゃんたちの会話を車内に漂わせ
バスは川沿いの国道169をすすむ。
杉の湯で長い休みをとったあとふたたび下桑原方面へ動き出したバスは
18時40分頃に前鬼口のバス停で私を降ろした。私は、最後の客であった。

林道入り口の「かどや」の軒先に灯るすすけた明かり以外の灯はない。

ヘッデンをつけて、ここからとにかくできるだけ入渓点に近いところまで今夜は進み
幕とすることにした。

ときおりテンが闖入者の様子を伺いにちろちろと遊びに来る。

1時間半あるいただろうか。
不動滝への降り口を分けてすこし上に行ったあたりに
焚火が見えた。
ちょっとほっとしたし、焚火があるということは適地なんだろう、面倒だし畳一枚分でも
スペースがあれば同宿お願いしようと近づいて声をかけた。
※びっくりさせてごめんなさい

林道の谷側に張り出した台地状の駐車スペースに車を停めて焚き火を肴にしていた二人の男性のご厚意に甘え焚き火に当たらせていただき、ビールをご馳走になった。

揺らめく炎

満天の星空

W田さんとK下さんは大峰の溪をあちこち渡り歩き写真を撮るのがご趣味。
この日も滝川から転戦し明日前鬼に入られると。
往年の凄腕クライマーであるW田さんと山談義、
大峰の沢を釣り歩いているK下さんとの釣り談義に花が咲き
気付くともう午前0時を回ろうとしていた。

風上側に車を置いた焚き火との間に
寝床をしつらえさせていただいた。
降ることはない。幕は要らない。
満天の星空が天幕。

滝の音がゆっくりと遠くなっていった。

翌朝目覚めると空高くうろこ雲が遊弋していた。
気温もさして低くない。絶好の沢日和か

御二方はまだ車の中で眠っているようだ。
一宿のお礼に先ずは焚火の熾きを目覚めさせる。

ほどなく車から出てきたW田さん、K下さんとお茶を飲んで一服してから、先に泊地を辞した。
お世話になりました。
ありがとうございます。

黒谷出合上部の入渓点まで林道をたどる。
どうどうと流れ落ちる不動七重の滝下部を望む。

整えられた林道終点がちょうど入渓点であった。

沢床に降りてみたが、まぁ
あまりぱっとしない。

沢支度を整え、清冽な水を手水に浄め、いつもの儀式
2礼2拍手1礼

山の神様、今回も無事に実りある山行ができますよう、御見守りください。

黒谷をまずは降渓する。本流の出合まではすぐだ。

エメラルドの輝く流れを漫歩する。

渓は麦に大きく向きを変え、そのとば口に2段10mが懸かる。

右手から簡単に登ることはできる様だ。
ただ、この落ち口で左岸から右岸への渡渉があるという。問題は水量と水勢だが・・・・
しばし思案しているとW田さんとK下さんが追い付いてこられた。
W田さんの見立てでは本日の水量では落ち口渡渉はリスク高いので
すこしもどった左岸から巻き上がるという。
わたしもご一緒させていただいた。

巻道は左岸の泥付ルンゼの右岸に「これか・・・?」と思しき踏み跡があったが
登りきる手前で崩れており腐った倒木が浮いている。
「こりゃぁ嫌らしくなっちゃったもんだなぁ・・・」と
W田さんがロープを引いて先行しK下さんを確保してあげたあと、
私はW田さんがしっかりした灌木にワンポイントでかけてくれたスリングを掴んで重荷を
背負った体を引き上げた。

左手に滝の落ち口を見ながら巻いていくと
「なぜわざわざ落ち口で渡渉するか??」という理由がよく分かった。
滝の右手岩場を這い上がったところですぐに立った岩場に阻まれその先が淵となっている。
抜けても岸が絶妙にナメており足場が悪い。対してあちら側の右岸はまだ足元がマシである。
問題はやはり渡渉ポイントの水勢と、沢床がナメているので下手をすると水に持ってかれて
しまうことだろう。

巻いた先の急斜面をちょっとした懸垂下降で降りて沢床復帰。いずれにしてもこちら側は
ナメた傾斜のある岩盤なので右岸に渡渉をするのだがひざ下程度の渡渉で済むので落ち口よりは
遥かに安全だ。

わたり切って上流を見ると左にカーブしながら渓は極上のナメを連ねる。

ここで、この極上のナメでの撮影をお目当てにやってきた御二方とは再びお別れし、
私はさらに歩みを進める。

ありがとうございました。

栃の実が、ポットホールの中で踊っている。
実りの季節を感じる。

やがて右岸から三重滝の合流点が見えるあたり、あまたの湧水が本流に合わさる光景は
壮観である。

湧水の清冽さに現れながら左岸をたどると三重の滝に上る登山道と合わさり
垢離取場に導かれた。

一本立てながら、沢日和のお恵みに深く感謝。
淵に身を沈め拝む。

深仙谷を分けると目の前に五百羅漢を従えて神座とも言うべき岩塔がそびえていた。

夜になると神様が戻ってくるのだろう。
そろそろ幕場を探すことにしよう。
Co880で孔雀又左谷を分けてからすぐに植林小屋跡が右岸にありその
すこし上に聖地が必要ないくらいのおあつらえ向きな台地があった。
すぐ上手に大きな岩があり、夜半の沢嵐も避けられるうえ
後背は傾斜の緩い斜面になっている。
沢床からは1m以上の高さもあり薪も周囲には豊富だ。
ここまで実際は思ったよりも時間がかかってしまった。

先ずは薪を集め、幕を張る。

一服

飯を炊く

シンプルで贅沢な時間が流れてゆく。

独り
吾れ渓中に在り。

2015.08.15 鈴鹿 杉峠~神崎川源流~雨乞岳/イブネ ハイキング

 

この日は鈴鹿の竜ヶ岳を源に東へ流れ出す員弁川のその源流に当たる蛇谷を遡行するつもりで早朝に八尾の自宅を出た。

ものの・・・

名阪国道を走っているうちに、なんとなくモチベーションが下がっていくのを感じて、入渓しようかどうしようか迷ってしまった。

というより、こういうときに無理に計画通りのことを運んで碌なことになったためしがない。亀山を過ぎて東名阪に乗った時に今日は沢はやめて以前から気になっていたイブネにハイキングに行こうと腹を決めた。

 

朝明渓谷駐車場より川を渡り出発。Co455
青空に映える清水
伊勢谷小屋を過ぎてCo520で林道は分かれ、直進は中峠方面へ。
根の平峠へは左へ。
このあたりで舗装路は終了する
ほどなく旧林道の渡渉点
天高く
渡渉せずに左岸につけられた登山道を沢沿いにあるく。
堰堤左岸に飛び出す。
堰堤上はゴーロ。赤ペンキに導かれて右岸へ。
気持ち良い木陰を淡々と登り、50分弱で根の平峠につく。
根の平峠の西側はシダ類の茂る緩やかな斜面。東面と打って変わり明るい疎林。
タケ谷出会いへと降りる沢型に沿って降りる
Co780で上水晶谷へと転ずる
森の養分豊かな、清水が現れた
上水晶谷。
冷たい水を補給。
コクイ谷方面へ
神崎川本渓の源流部に沿う。快適そうな幕場が広がる。
秋はこのあたりで泊もよろしいかな。
このあとコクイ谷出合は通行不可のため2回の渡渉で迂回。

御池鉱山跡。銅の採掘が主であったようだ。
このあたりの鉱山は江戸時代
から存在したが、明治から昭和の時代には大平鉱山、コクイ鉱山、高昌鉱山、オゾ鉱山などあ
り、黄鉄鋼や磁流鉄鋼、閃亜鉛鉱、マンガン、銅などを掘削していたとされる。

御池鉱山跡の幕適地

往時の賑わいを忍ばせる集落の遺構がそこかしこに。
かつてここで産出された鉱石は、ここまでたどってきた旧千草街道を根の平峠を越え朝明、四日市方面に運搬されていたという。
枯れた大きな杉が見える。
今も昔も旅人の目印か。杉峠。
その昔、ここには茶屋があったとか。

峠の木陰で一服。至福の時間。
予想よりも早く着いたので、雨乞へ寄り道。
古くから雨乞信仰の対象とされ、下流域の農民が山頂付近にある大峠池に登拝していたことが山名の由来となっている
西に、東近江市方面を望む
イブネを望む気持ち良い稜線。ゆっくりと雲が流れる。
ススキの穂が伸び始めた。アキアカネも飛び交い、秋の足音。
杉峠から北に転じ、杉峠の頭へ。

杉峠の頭

佐目峠からヒトのぼりで

イブネ到着。

広々とした台地を漫歩。時折涼しい風が渡る。クラシへ向け北に転ず

苔の敷き詰められた緑のじゅうたん

クラシは藪のなか。。。。。
イブネに戻り昼食。
行動食はシンプルに、梅干しと白飯のおにぎり。

旧千草街道の歴史ロマンにひたる素晴らしい山路であった。

※難路なし。上水晶谷から御池鉱山に至る迂回渡渉箇所付近、および杉峠よりイブネに至るCo1121地点から佐目峠への踏路はテープ間隔広く注意要す。
飲料水確保は御池鉱山跡付近まで沢水で可。

2015.08.02 鈴鹿西面 野洲川水系 元越谷遡行

朋の遠方より来る
亦た、うれしからずや。

東京の岳友さんと、昨年白毛門をご一緒した先輩が関西に来られるとのことで
なれば灼熱地獄の関西でせめてひと時の涼を共に過ごしましょうということになった。
お二人とも山岳登攀をやっておられ、記録などで技量の把握はできている。

先輩はお仕事で出張帰りの山行になるので、なるべく帰路新幹線の駅に立ち寄りやすく
お疲れの体をいやせる遡行がよいな・・・
私も先週は東京での出張で廃人になりかけだし、とっぷり水に浸かって重力からの解放感が得られる
ルートがよいか・・・

で。
今回も鈴鹿に。
西面の美渓、元越谷である。
遡行時間もわりに短く、途中焚火休憩などする時間もとれそうだ。
せっかくだから久しぶりの「沢そうめん」を楽しんでいただくことにしよう!

【山行実施日】2015年8月2日
【天候】スカッ晴れ。遡行開始時気温:クソアツ
【メンバー】Chanko、S先輩、Akiさん
【装備】フェルトソール・8x30mロープ

前夜、JR久宝寺駅で待ち合わせ、2時間ほど車を走らせてR1は滋賀県土山町の道の駅の駐車場へ。
早速、入山祝いの宴会を軽く。
少し蒸すが雨の気配はないので、お二方には車中でお休みいただき、私は車の外にマットを広げ
ゴロ寝する。

翌朝は5時半に出発。
鈴鹿スカイラインをちょっと行き過ぎるハプニングもあったが、もどって大河原橋から2~3分入った
林道の脇に車を止めて準備。
40分ほどの林道歩きを。

林道が大きく左にヘアピンを切る手前で赤テープに導かれ沢床に降りる。

澄んだ水。

沢装束を整えて

出発しましょう。

へつったり

およいだり

思い思いに楽しみながら

渓が右に大きく曲がった場所で

この先の堰堤を左岸から巻く。

と、あっけなく15m滝が現れた。

水線右にラインを求めるが
思いのほかヌメリがあり、中段から上がけっこう細かいので

直登はあきらめ、左岸のガレルンゼから巻きました。

その後は、水量、水勢こそ2週間前の赤坂谷に軍配が上がるものの

心潤う風景が続く。

狭いところ、好きです。

快適なのぼりが続く。

先輩のうれしそうな笑顔。
喜んでもらえて、本当に良かった。

詰めのを少しはやく右岸の尾根にのってしまったので
飛び出したのは

この崩壊地。
眺めは良いからまあええか。
稜線上のザレと藪のコンタクトラインに足跡が残っている。
けっこうみんなやっちゃってるみたいww

まぁ、このまま見通しやすい稜線通しなので楽と言えば楽ですが。

そんなわけで稜線の縦走路に20分ほどで飛び出しました。11:00。
暑さを避けて早めの行動開始にしたのがよかったが、稜線上は無風で照りつける日差しにうんざり。

水沢峠から沢通しに下降して、Co720の広い出合で昼飯にする。
焚火を起こしましょうね。

最近は携行に便利なつゆが売ってて重宝しますな。

ちゃっ、ちゃっ とな。

水が旨いと、そうめんもウマイ!

これも旨い水、山の恵み。

気心知れた仲間と楽しむ山行も、たまにはよいものですね!

山の神様、龍神様
今回も受け入れていただき
ありがとうございます。

2015.07.20 鈴鹿西面 愛知川水系神崎川 赤坂谷遡行→ツメカリ谷下降

台風11号が我が物顔で関西を蹂躙した7月の半ば。 7月18日~20日は当初は大峰の川迫川源流に遊ぶつもりであった。

Nangkaは大峰の山々に深い爪痕を残し北東へ去った。
アプローチがあれまくって、さすがに大峰へ深入るのは危険と思われ
全体に出水の落ちつく19日以降に、Nangkaの足跡の薄い鈴鹿方面へ転進することにした。

愛知川水系神崎川 赤坂谷は『関西の赤木沢』と呼ばれる一級の美渓とのことである。
【山行実施日】2015年7月20日
【天候】晴れ(20日)。遡行開始時気温:覚えてません
【メンバー】単独
【装備】フェルトソール・8x30mロープ
前夜のうちに神崎川出合まで車を走らせ、国道からわき道にそれた資材置き場と思しき
草原にて車中泊とする。

揺らめく火と 山の酒と

はかなげな灯りと

翌朝は6時前から行動を開始。
国道沿いの車止めの前に駐車すると、すでにもう一人ソロの遡行者が入渓準備をしていた。
彼はツメカリ遡行→赤坂谷下降と、私とは逆コースのようだ。
林道を40分も上がると、渓からだいぶ上の、林道が大きく左に回り込む直前あたりで
左眼下に赤坂谷の出合が見えた。
神崎川は水量豊か。巨岩がひしめく中を明るいブルーの水がどうと流れている。
この流れを渡渉して谷に入らねばならない。

本流への下降点はわかりやすい。
蛭が一匹、足元で踊っている。
真ん中の木にFixロープが下がっており
導かれるように川床へ下りる。

沢装束を整え、本流に足を浸し
いつもの儀式を。
二礼二拍手一礼
向こう(写真右手の対岸)が赤坂谷出合である。
先行した件のソロ沢ヤさん、ツメカリ遡行と言っていたはずだが
なぜか赤坂谷に入るのが見えた。

本流の左岸を伝い、出合付近で巨岩を飛びながら対岸に替える。

水はあくまでも碧く豊か。
奥のほうも開けているようで、岩の白い輝きもあいまって
明るい沢の予感に心高鳴る。

以降、難しいところはない。
泳ぎを多く交えながら無心に遡る。

淵では時折岩魚の魚影が走る。
尺まではいかないが、なかなかに立派な魚体のものが見受けられる。

晴天の下、翠滴る。

滴る翠、碧水と交わり更に深く

時折、巨岩に座をかりて小休止

地形図ではそろそろ渓も平凡な様相となる。
おそらく緩やかなゴーロだろう。
さすがに食傷気味となるのでこのあたりで休止して
左岸の尾根を詰め、ツメカリ谷へ降渓しよう。

乗越しへの沢筋には、テープが示されていたが

上部がやや不明瞭。
ブタ沢になりかけたところで沢から外れ鞍部を目指す

下降点も赤テープ。
沢型になりはじめた。このまま下る。

やがておりたったツメカリ谷も明るく開けた沢

深い滝壺に数回のダイブを繰り返しながら本流出合に降りた。

ちょっとしたハプニングもあり、やはり渓の神様の存在を改めて意識した沢旅であった。
ともあれ、ご加護いただいていることに感謝をあらたにする。

鈴鹿の渓、美しい。

山の神様、竜神様
今回も素晴らしい邂逅をありがとうございます。

 

2015.06.20~21 裏比良 安曇川水系 白滝谷遡行他

記録を書くほどの山行でもないか、と思いながらだらだらとそのままに放置していたが
このままで放置しておくのも何となく気持ちが落ち着かないし
もしかしたら思い出しながら書くことでなんか新しい発見があるかもしれないような気にもなった。
それに、一応、何らかの形で総括しておかないと次の旅への踏ん切りがつかないような
一抹の居心地の悪さもある。

月に一度は、山で寝たい。と思っている。

出来合いのテン場ではなく
自分の感性がハマる場所で
独り
シンプルな幕を掛け
焚火の揺らぎを眺めながら
森の梵と水音に耳を洗い
ニッカの黒髭を舐める。

酔いの赴くままに眠り
白々と明ける頃目を覚ます。

そこで何をするわけではない。
無為を為しに行くわけだ。

それだけが目的なのだから、別に遠くの山である必要はない。
冒険の要素も必要ない。
歩いたことのない沢であればよい。

6月21日の日曜日はある岳友さんにヘク谷に誘われていた。
6月19日の段階で20日はまだ天気は持つが21日がかなり微妙な予報であった。
以前から20日~21日はどこか沢を絡めて山に寝に行こうと考えていたところで
ヘク谷へのお誘いは私の心をいづれにせよ比良に向かわせることになった。

20日/白滝谷→蓬莱山→小女郎が池→サカ下→ヘク谷出合で幕
21日/ヘク谷出合で合流→ヘク谷遡行→小女郎が池→サカ下→ヘク谷出合

みたいな感じで計画書は提出している。
21日決行するか否かは20日昼過ぎに決めるとの事前連絡があったので、その時点ならば
私は白滝谷を出てびわ湖バレイ付近のケータイの電波が入るあたりでウロウロしているはずだ。
21日の行動をどうするかは、それから変更すればよい。

白滝谷は非常に平易な沢であるが比良でも指折りの美渓と聞く。

【山行実施日】2015年6月20日~21日
【天候】曇り(20日)めっちゃ雨(21日早朝)。遡行開始時気温17℃
【メンバー】単独
【装備】フェルトソール・8x30mロープ
【ルート】
6月20日:坊村→牛コバ→牛コバ上林道終点(入渓)→白滝谷遡行→木戸峠→南比良峠→金糞峠
金糞峠下幕
6月21日:幕場→金糞峠→青ガレ下山→イン谷口
【行動時間】おぼえてません。

★6月20日
出町柳を出た7:45発、朽木学校行きのバスは8:41分に予定通り坊村のバス停に到着した。

バス停前でトイレを済ませ、今日は少し、余裕があるから明王院へ詣でてから山に入ることにする。

前々日からこちらは雨続きで、梅雨の晴れ間とはいえ水量が気になってはいたが
明王院の水位水勢は平水?であろう。

ときおり日差しもあり初夏の緑が空気を染める。
ゆるりと林道を歩き、甘露な湧水のお恵みもいただきながら

30分ほどで白クラを左に見る口ノ深谷出合

やがて奥ノ深谷出合を過ぎ牛コバを見送り

この先の林道終点付近で渓装束を整え、入渓する。

入渓後はしばらくゴーロが続く。

若干めんどくさいが思いのほか明るく開けた渓相で、まぁまぁな感じである。
小滝が出てくると、水の美しさが際立ち始め
無心に美渓の逍遥を楽しめるようになった。

ナメているが全般にフェルトソールのフリクションが効き歩きやすい。

例によって滝の順番は覚えていない。

2時間もせぬうちに、ひときわでかい滝にあたった。

一段目を上がり様子を見た。
水線右のリッジが使えそうと踏んだがヌメリがきつそう。
真ん中のから上がるリッジもありそうだがこの水勢では飛ばされてしまうな・・・・
巻きを探したがおそらく右岸巻きだろう。
しかし右岸もまだ新しい土砂崩れがあり、かなり水を含んでいて悪そうだ。

少し戻って沢沿いの登山道に上がり大巻きして沢に戻ろうと考えた。

アジサイのにぎやかな登山道を鼻歌交じりにぷらぷらと上がっていくうちに
わざわざ沢に戻るのも面倒になってきた。

おりよか、どーしよっか

考えながら歩いているうちに
夫婦滝まで巻いてしまっていた笑
落ち口を登山道から。

まぁいいや。別に滝を上りに来たわけじゃない。

そろそろケータイの電波も届くようになり、連絡がある。
21日は天気芳しからず、中止とのことである。

さて、ヘク谷は中止になったし明日はどのみち沢はナシで行程を考え直そう。
クリンソウに相談しよう。

今夜は、いづれにせよ、山で寝る。
それは決めている。

できれば人の気配のない場所で独り。

先月奥ノ深谷を遡行したときに見つけた源流部の森を思い出した。
そうか。あそこに行こう。
あそこで寝て、次の日は武奈ヶ岳~釣瓶岳~ワンゲル道で降りよう。

木戸峠へ向かいそこから南比良縦走路を北上することにした。

天気のせいだろうか。結局金糞峠までは1組、5~6人のハイカーにしか行き会わなかった。
静かな森歩きを楽しむ

金糞峠から西に下り、いわゆるテン場を過ぎて2回ほど渡渉する。
ほどなくして、前回あたりをつけていた適地が左岸にみえた。

装備を解き、幕を掛け、薪を集める。
薪は豊富にあったが水をかなり吸っているのでなかなか火が育たない。
それでも何とか、メシを炊き味噌汁を作るくらいは続いた。
寒くはないのだが火が心もとないのは惜しい限りだ。

ともあれ
こんな天気の日に、こんな辺鄙なところで一夜を過ごす物好きはほかに居ないようで
素晴らしく、清冽な夜だ。
メシを済ませ
いつもの夜の友 ニッカの黒髭を
ミックスナッツをかじりながら飲る。

暗くなる。
心地よく酔いが巡る。
ユニクロのダウンを着て、シュラフカバーに潜ると

いつの間にか落ちて行った。

★6月21日

白み始めた朝の4時
数発の雷鳴に目を覚まされる。

ほどなく雨が森を叩き始め、大粒の雨がバケツをひっくり返したように降り注ぐのに
時間を要しなかった。
昨夜の残り飯をモッサリ食いながら
ブルーシートの下で雨脚が収まるのを2時間ほど待ったが
一向にその気配すらない。

幕場下の谷筋は轟音を立てている。

この分では、当初予定していた牛コバ方面への下山は
渡渉点が濁流に水没しているだろうしまず無理だろう。
金糞峠から最短距離で青ガレを下ってイン谷口に下山するのがよろしかろうと
雨にたたかれながら撤収し東へ向かった。

峠の直下で若者の一団がなにやら地形図を広げている。
関西学院高等部のワンゲルさん。

武奈ヶ岳へ行く予定とか。
まだ雷が遠ざかっていないので稜線を行くのは危険だ、ということでワサビ平へのルート
で一旦様子を見て上がるとのこと。

がんばれよ。リーダー、頼もしいね。
おっさんはね、「山で寝る」って当初の目的は果たしたんで
さっさと帰りますわ。

で、川みたいになったルンゼを東に直降。

青ガレに差し掛かる。
雨脚はいまだ強く、ばたばたという雨音の間から
『カラン、カラン』という
石の転がる乾いた音が追いかけてくる。
あまり気持ちのいいものではない。

でもお前さんは、うれしいだろうね。

大山口まで降りてくると、やっとこさ雨脚が収まってきた。

イン谷口の分岐まで来ると上からタイミングよく比良駅へ行くバスが降りてきた。

比良駅で下車し、電車の待ち時間の間、西口にある食堂で
冷えた体を温めさせてもらう。

なんとなく始まった山行を締めくくるにふさわしい
なんてことないエピローグの中で

この食堂のその日唯一のフードメニューである
カップヌードルをすすりながら
店を切り盛りするばぁさんととりとめない会話を交わし
ゆっくりと現世に心を馴染ませた。

店を出ると
里には、初夏のまぶしい日差しが戻っていた。

2015.05.30 裏比良 安曇川水系 奥ノ深谷遡行

この記録を書いている5月31日は、当初の予定なら地元の岳友さんに誘われて大峰の前鬼川本流
に行っているはずであったのだが、31日の予報が芳しくなく30日に前倒しとのご連絡があり
30日はPM18:00にやんごとなき所用を控えた中で、残念ながら直前辞退した。
とはいえ前回のGW以来沢に入っておらず、とにかく近場でも沢に行こうと考え、
アクセスその他を考え合わせると『30日・裏比良』との選択肢となった。

以前から中間的な自己評価をここでかけようと考えていた沢が2つ、候補にあり、
それが安曇川水系明王谷に流れ込む二つの沢『口ノ深』と『奥ノ深』であった。
時間に余裕があるとはいえ遡行時間の少し長い『口ノ深』は今回は避け
『奥ノ深』に狙いを定めたのは29日の朝のことである。
メジャーな沢だけに記録も多いが、その中でも特に
『美しい広葉樹林に彩られた、裏比良らしからぬ明るい沢』との文言に
いたく心ひかれたのである。

とはいえ、そんなのどかな紹介の片方で『十九の滝』と異名をとる
数多くの滝をかけた沢である。
はたしてどうなることやら。

【山行実施日】2015年5月30日
【天候】晴れ。遡行開始時気温23℃

【メンバー】単独

【装備】フェルトソール・8x30mロープ

【ルート】坊村、明王院より林道をたどりすぐの駐車場Co330に駐車。
林道を辿りCo443にて入渓。
Co700、登山道渡渉地点にて遡行終了
以降沢沿いに辿り大橋分岐より金糞峠→南比良縦走路にて
南比良峠→大橋分岐→遡行終了点より牛コバへ。

 

→駐車場Co330

【行動時間】8時間(休憩込)

AM05:00 大阪は八尾の自宅を車で出発。下道をつなぐ。
R170~R1~R367にて京都市内から大原経由で
AM07:20 滋賀県葛川坊村のキャンプ場を左対岸に見るとすぐに右手に
『明王院』入り口の看板。ここを入り、まずは
地主神社に参詣、山行の無事を祈念する。
近くのきれいな公衆トイレで軽量化を済ませ、
車をさらに少し林道の奥まで運び左手の駐車場に止めて支度をする。

AM08:05 支度を終えて、のろくさと林道を歩き始める。

20分も歩くと、本流の三の滝への降り口に出会う。

少し先へ行くと、三の滝の水源の一つとなる湧水が、水場として右手に出てきた。
一口掬う。ウマイ。柔らかく、甘い味がする。
甘露だ。まさに甘露。

伊藤新道の出合を右手に見れば、シロクラを左手に控えた口ノ深谷の分岐は近い。

シロクラの壁がそびえた口ノ深谷出合で
若い単独行者が谷への入り口を探していた。

更に五分ほど歩みを進め白滝谷を右から合わせる二本目の橋を渡った左手に奥ノ深谷の
降り口がかなりわかりやすく踏まれている。

写真左手奥には沢床から1.5m程高くなった平らな台地があり、幕適地となる。

AM08:50

いつものように、上流に二礼二拍手一礼して入渓
『山の神様、本日も一日、遊ばせていただきます。どうかよろしくお願いいたします。』

しばらくはゴーロかな・・・・と歩みを進めると早速滝場が始まる。
テンポが速い。

降雨が少なかったとはいえ十分に水量もあり水勢もある。
小さな滝も立派な釜を持っており、ブナやナラやクヌギの葉を通して
明るい陽光が碧水を輝かせる。

とにかく忙しい。滝また滝。

もう何がどの滝だかワケワカラン笑ので
写真は順番テケトーです!!

4つ目か5つ目か、まあそんなあたりで出てきたこの7~8m程の滝。
高巻きで落ち口の高さあたりで浅いルンゼのトラバースがあるのだが
見てくれのいやらしさを嫌って上に上がっていくうちに
次の連瀑の2段目テラスまで巻き上がってしまった。
持ってきたのをこれ幸いとハンマーバイルを使いながら
ひやひやのクライムダウンで高度を戻したが
しょっぱさを感じたのはこのくらいであった。

この高巻きが終了したところで下を見ると、男女2人のパーティが4段滝の1段目を上ってくるところ
であった。
その後、この三重県から来られたYさんパーティーとは抜きつぬかれつ、
時折言葉を交わしながらのんびり遡行することになる。

滝→滝→滝→滝→滝→滝→滝→滝→滝→滝→滝→滝→・・・・・・・・・以下略

と、傾斜が弛んだところで前方に沢を横切るトラロープが。
はたしてここが遡行終了点だった。

Yさんパーティはここで装備解除して降りるようだ。

私はまたいずこかの沢での再会を約し この先の本流筋をさらに詰め金糞峠へ向かう。

この谷の、最初の一滴を見たい。

遡行終了点から大橋分岐へ歩みを進める。

平凡な緩やかな流れとなった谷は、明るい林の中をゆったりと流れてゆく。

両岸は程よい高さの台地状で明るく開け、土木工事の必要がないくらいに
そのまんま幕適地がより取り見取り。ここはよい!!乾いた枯れ木も事欠かない。

大橋分岐付近で、崩れた作業小屋の跡。

ほどなく金糞峠下の幕営地に。

杉の植林も交じるこの辺は、火のまわりやすい杉の枯れ枝が多くたき火は禁止だ。

ここからものの3分で金糞峠。

峠の地名に敬意を表し

カレーパンを喰らう。

そそくさと補給を終わらせ、装備を整理しなおしてから
縦走路を外れ西面の谷筋を辿り、水切れを探すと

このあたりで地面からしみだしが出てきている状況を確認した。
陽の光を浴びる最初の一滴。
進路を東の凹面に求め、縦走路に乗り上げて南比良峠を目指す。

南比良峠

小休止の後、大橋分岐方面へ西に転じる。
峠のすぐ下には、気持ち良い草原が広がり
2つほど、神座と思しき巨石が鎮座する。

30分足らずで大橋分岐。
そして再び遡行終了点から、今度は牛コバへの急な下りの登山道を下り

1時間少しで牛コバの林道終点へ降り立った。


距離・時間ともに遡行だけを見ると短いものではあったが、様々な要素が
凝縮した充実感のある遡行であった。
中級と目される沢で比較的自分の思い描いた通りに諸般こなせ、
今後につながる収穫のある山行であった。

無事に帰れたことを改めて山の神様に感謝。

入渓点で再び二礼二拍手一拝。

『山の神様、今日も一日、ありがとうございました。』

 

2015.05.05~05.06 大峰 川迫川水系 神童子谷~犬取谷遡行

【携帯水没】

しました。
いろいろ撮ってた写真が全部見れなくなっちゃいまして。
無念です。

それゆえ今回の遡行記録は写真のない、まったく文字だけの記録になってしまいます。
現場での新緑と大峰ブルーの瑞々しさを表せるはずもなくパサパサな記録になっちゃいますが
ご了承ください。

【山行実施日】2015年5月5日 ~5月6日
【天候】5月5日・・・快晴
5月6日・・・朝のうち快晴、午後より薄曇り

【メンバー】単独

【装備】フェルトソール・8x30mロープ

【ルート】1日目:大川口~(神童子林道)~終点入渓⇒レンゲ辻谷出合幕営(15:00)
2日目:レンゲ辻谷出合~山上ノ辻(稲村小屋)⇒洞川温泉(13:00)
【行動時間】12時間(休憩・釣り込)

①1日目

朝6時に妻に最寄りのJR駅まで送ってもらい天王寺下車。
近鉄の阿部野橋より吉野行き急行(06:50発)で下市口に08:02着。
日曜祝日のみで洞川温泉行きの季節運航の臨時急行バスが08:20発。
急行に途中から続々と乗ってきた登山客と思しき乗客は案の定下市口駅で
大挙して降車し、先を争うようにバス停へ向かう。
幸いに前から10番目くらいの乗車順につけて並ぶことができた。
朝から快晴。前日は一時的に天気のぐずつきがあったが、予報、天気図では
5,6日共に大陸からの高気圧の張り出しに覆われ安定した好天が確実だったため
憂いない山行になりそう。晴天の元の大峰ブルーに否が応でも期待は高まる。
問題は天川川合からのアプローチで、公共交通機関はなく、天川村に1台しかない村のタクシーを
使わなければ

(予約できんとのこと。予約のできるタクシーは吉野とか大淀から回送の為アホみたいに高くつく)

A)自前のアンヨで3時間ちょいひたすら歩く
B)おそらくバス停で待ち構えている天川タクシーに相乗りキボンヌルで潜り込む
※これはその車が、R309でみたらい渓谷より向こうへ行く客を乗せる予定であることが
前提となる。
C)テクテク歩いている途中でに背後から行者還トンネル方面へ行く車を見つけヒッチハイクする。

の3つの選択肢がある。計画書はA)の時間計画で出してはいるが、こんなスカッ晴れで風の弱い日に
カンカン照りのお日様に向かって歩き続けるのはナンボ修行の山といってもなるべくご勘弁願いたい。
しかも舗装道歩き。

バスに揺られ揺られて50分ほど。
まぁ何とかなるやろ、と楽天的に考えていた。
バス停に着くとやはりタクシーはバス停で待ち構えていた。
3人の学生さんが行者還トンネル西口まで乗るとのことでワリカン相乗り決定!
ラッキー!これで2時間半は余裕が出る。
車は20分ほどで大川口についた。ワリカン分を学生さんに渡し車を降りると
眼下の川迫川本流にはフライマンたちがあちこちに入渓している。
水量が少ないようだ。
GWに入ってからまとまった降水がないとか。
さて、とりあえずここから40分ほどの林道歩き。
路肩には5~6台ほどの釣師と思しき車が駐車されている。
新緑のまぶしい林道は、ところどころ補修され歩きやすくはなっている。
思えば昨年の8月にここにきてアプローチ敗退した時の林道の状況はすさまじかった。
台風一過の翌々日で前夜天川温泉の駐車場で車中泊したが夜中も激しい雨が一時降っていた。
早朝に雨も上がり大川口から林道に入ると、路肩の崩壊、落石が道幅を狭め、愛車が軽のワンボックス
で良かったと思いつつさらにオソゴヤ谷出合の橋を渡りかけたところでついに1車線のみの道路が
路肩崩壊で0.5車線となり万事窮す。しゃーない、少し戻って脇に止めて徒歩で林道詰めて入渓すっか・・・と思ったその目の前に
左岸の絶壁から落石がおっこってきて、青くなって鬼バックで逃げ帰ってきたトラウマロードである。

今日は微風快晴の元、新緑の芽吹きと涼やかな沢音を愛でながらの散歩道。
まこと快適。
歩き始めて40分ほどで林道終点となる関電測量所についた。
この先の橋の下から入渓してみる。広い河原に腰かけて眼前の大峰ブルーの水に目を細める。
いや、ブルーというより、限りなくコバルト。
石灰岩と花崗岩に磨かれた澄み渡った水。
車両通行止めということもありここまではまだ釣り師も入っていないようで
アマゴが盛んにライズしている。沢支度もそこそこにテンカラを引っ張り出して
ここで小一時間も遊んでしまった。あれだけライズしていたが、22㎝を1尾抜いただけ。
腕ですな・・・・・
さて、そんなこんなで気づくと11時。計画よりも早く入渓できたとはいえ
あんまり遊んでいては押してしまうだろう。
初めてのルートで何があるか予測がつかない。余裕をもって行動開始。

沢支度を整えてよいこらしょっとザックを担・・・ぐ前に
いつもの儀式。

上流に向かい2礼2拍手1拝。

『山の神様、今日明日、遊ばせて頂きます。なにとぞよろしくお願い申し上げます』

①で、いきなり淵。
(あとから遡行図を見たらこれはトガ淵といい、通常は左岸に途中までつけられている
関電の巡視用桟道を使って巻くらしい)
右岸に取り付いてへつろうか左岸でへつろうか観察したが、右岸に取り付くのも一発泳ぐようだ。
左岸の足元は見るからに滑りそうな磨かれたナメ状。これは泳ぎしかあるまいと
腹を決めてザックのベルトを外し片担ぎにして泳いだが・・・・・
うーん。。。。。
重くて進まんwww
何度か押し問答やってるうちに途中で先の方の左岸に伸びている桟道を発見。

なんだよ(笑

てなわけで戻ったとこの左岸の浅い谷筋にかかる桟道に乗り込んでさっくり巻いた。
とりあえず桟道がどこまで続くか見てみようと歩いたが、トガ淵を巻いた先50mほどのところで
崩壊しており降りれない。仕方なく少し戻った斜面から再び入渓。

しばらくは魚影の濃いアマゴを追い立てながら足を進める。

②まもなく谷は右へ曲がりゴルジュ『へっついさん』が現れた。
最近の情報では淵をかなり砂利が埋めていて浅くなっているとのことにてそのつもりで
入り込んでみると胸までの水位がある。きいてないよw
流れはゆったりしているし、足元まできれいに見えるから不安感はなかったが。
一発目の泳ぎ、そして胸まで渡渉でたっぷり水につかった。
既に雪代は消えているとはいえ、やはりそこは深山幽谷の大峰。
冷たい。とにかく冷たい。

③谷は再び左への展開を匂わせたがその入り口に落差5mほどのナメ滝が
不気味な縦渦を深そうな淵に落としながら佇んでいる。
手前からナメ滝の右岸に乗り越さねばならないが、そこへ渡るには3mほどの
わずかな泳ぎを入れねばならない。
意を決してなるべく対岸に近いところまで勢い付けていけるように飛び込んだ。
ザックの重みが一瞬効いて鼻まで沈んだがすぐに浮き上がり対岸の滑りやすい
壁に手がかかる。わたり切った先はこれもナメているが足場があり、そこを絡めて
ボルダーチックにマントル返しながら滝をずり上がる。
スローパーなホールドをきわどくプッシュしながら滝上に出ると乗り越した上の右岸にトラロープが張ってあった。
あるものは、使う主義です。

④やれやれよ。としばらくはゆったり水線漫歩していくつか小滝を超えると
高い側壁の出口あたりに噂の赤鍋の滝が見えた。
左岸をへつり登る。
広い釜の左岸を腰までつかってへつりながら、左上する手がかり足がかりを探る。
微妙な凹みと乾いた面にじんわり乗り込み、フリクションをじっくり効かせながらの歩み。
手を伸ばすと確かに浅いクラックが左上しており、手がかりとしては素直にコイツ
を使えばよいが、足は相変わらず悪い。滑ったら手がかりはバランス程度の浅さなので
間違いなく滑り落ちてドボンだろう。
半分まで上がったところで残置ハーケンが見えた。
シュリンゲを掛けて大股で乾いた縦のジェードルにある足場に左足親指だけで乗り込む。
これだけで姿勢がかなり安定してそのまま上に行くラインが見えた。
あとはスリップに注意しながらシュリンゲをはずし、上へ。

ふぅっと、一息。
周囲は疎林で仮に撤退するとなれば滝上にハーケン打って残置しなければ降りれないだろうな。
となると、さっきのナメ滝の下降も含めるとハーケンもある程度枚数いるだろう。
単独では撤退の難しいところまできた。
ここから先は、とにかく上り詰めるのが最も安全ということになろう。

⑤釜滝。このすぐ上で谷は犬取谷(左)とノウナシ谷(右)に分ける。13:00

言葉が見つからない。直径2~30m以上あろうか。広い釜に落差8mほどで2条になり
滔滔と落ちる水は木漏れ日の下で釜の中にあそび、陽光の強弱に合わせるかのように
色を変えてゆく。
どこまでも澄み渡る静かな淵の中には尺はあろうかというアマゴが悠々と何匹も遊んでいる。
ここ。この光景を見るためだけに、この谷に来た。といっても過言ではない。
まさしく『桃源郷』とは、この目の前の光景のためにある言葉なんだ。
桃源郷。ここは桃源郷。

言葉にならぬ美しさを収めようとケータイを取り出した時
初めてただならぬ事態に気付いた。
ジップロックに水がたっぽんたっぽん入ってますwww

ジッパー、あいてました(爆

うん。で、予想通り
うんともすんとも言わぬ。

しばらくフリーズしたのは未だ5月初旬の泳ぎの為ではありません。

そして私は、こう考えることにした。
今日、初めてここにきて、文句ない好天のもと
これだけ素晴らしい光景に出合えたのは、山の神様のお導きだと。
そして山の神様はこう言ったのだ。
『あんなー、アレやねんけどなー、今日は特別にめっちゃエエもんジブンだけ見せたるさけ、
ほんま特別やで。せやからなー、こっから先のことは写真とか撮らんと、ジブンの胸にしっかり焼き付けぇや。他のモンは見たかったら頑張ってココきたらええねん。』

そうです。そうですよね、神様。
ひよっこ沢ヤ、頑張って独りでここまで来ました。
ご褒美なんですよね。うん。
ほんまありがとうございます。

でもね、一つだけ、いいっすか?
こっから先とおっしゃいますが
ここまでのデータも全部アジャパー(古ッ)っすわ・・・・

おいちゃん、悲しいからアマゴちゃんと遊ばせて頂きましょう。
テンカラをふりふり。
ふりふり
ふりふり
ふりふり
ふり・・・
ふ・・・・・・・

一時間、体がすっかり乾くまで粘ったが
遊んでくれたアマゴちゃんは1尾だけ。
腕悪い。

今年はマヂで釣り修行の入渓をメインにしたくなった。

とはいえ、今回は遡行で峰越えが目的。
小一時間遊ばせて頂いた釜滝に2礼2拍手1拝。
左岸から小巻に上がって釜滝を辞した。

しばらく平凡な渓相の中を進む。
陽は高く、新緑を透けてこぼれてくる光が空気をグリーンに染める。
ゴーロに生した苔と相まって、緑の海を泳いでいるかのようだ。

ほどなく
⑥奥の狭まった廊下の先に一ノ滝が現れた。
廊下の水位は深そうだ。ヘツリ泳ぎで取り付くことはできるだろうが
なんの迷いもなく左岸小巻一択。

⑦一ノ滝より落差のある二ノ滝。
左岸巻き。巻きルート自体は簡単なのだが、意外と高度感があるうえ
まださほど今シーズンは踏まれてないだろう、落ち葉の堆積が
足場をいやらしくしている。一歩一歩、落ち葉をどかしながら慎重に足を進める。
キョウイチで緊張しただろうか。

⑧幕場
巻き終えると歩きにくいゴーロが続いており
少し先に左岸から入るレンゲ辻谷を合わせる広い河原があった。
このすぐ上まで偵察したところ、2mほどの小滝を越えたすぐ上の左岸に
万一の逃げ場になる緩斜面を控えた、ちょうど一張り分の広間があり、沢床よりも1mほど
高くなっている。上流側に巨岩が鎮座しており沢嵐もある程度回避できそうな理想的な状態だった。
早速にタープを張る。軽く土木工事をした広間に
コーナンで買ったブルーシートを『瀬畑式』で設営する。
張り縄は太めのジュート紐Byコーナン。
快適すぎる。やばい。ホテルだホテル。
さて、薪。
数日間雨の少ない状態で、周囲に散らばる倒木や枝は乾いている。
しかも豊富だ。焚火でいうところの『ご神木』もころあいのものがあった。
ホテルの前にうずたかく積み上げ、下流側で火を焚き始める。
ジュートをばらした物を着火剤にしてあっさり着火。乾いた小枝は勢いよく燃え始める。
この調子で夜明けまで火を絶やすことなく、温かく過ごした。
暗くなる前に、米を炊き、みそ汁を作る。
メシは、シンプルで良い。余計なものは、なくてよい。
家から持ってきた米は目の細かい洗濯ネットに移し替え擦るように研ぐ。
便利だ。乾燥キクラゲを戻し蕗と共に軽く湯がき味噌を入れる。
1尾だけ、確保しといたアマゴに塩をして焼く。

やがて夜のとばりは降りた。
食後の酒を。ニッカ黒ひげの小瓶。
ふたを開け、ふたになみなみと最初の一杯を注ぎ、上流に向かって捧げる。
そして、焚火を眺めながら、少しずつ、なめる様に楽しむ。

何も、考えない。
目を閉じる。
どこからか、篠笛が聞こえる。
シカの鳴き声ではない。すこし低く、メロディーになっている。

当然、稜線の遥か下の谷底。そんなものが聞こえようはずがないのだが、私には聞こえた。
幻聴かもしれないが、それでも良い。
不思議と、怖さはない。
いや、むしろ、ほほえましくさえ感じた。

神童子が、来たんだな。

そう思った。

⑨二日目
明け方4時過ぎると東向きの谷は新しい一日の気配をうすい靄の中に漂わせ始めた。
熟睡した。
焚火の熾きに小枝をついで火を起こす。
ホテル『ブルーシート』を解体し、畳む。切り落としたジュート紐と柱を火にくべる。
昨夜の残り飯をみそ汁に突っ込みクツクツと煮る。
軽い朝食でしっかり腹も満ちた。

昨夜聞こえたあの篠笛の音を思い出しながらパッキングをする。
燃えかかっている物は、すべて燃やし尽くす。白い灰になるまで。
茶を飲み、クソをする。

ゆるりとクソをたれながら見上げる空は、靄がだんだんに晴れ、
今日も良い天気だ。

穴を掘り、落ち葉と共にクソを埋める。
俺の分身はやがて木々の冬枯れの分身と渾然一体となり
生命の輪廻に再び分け入るのだ。

AM06:05
行動開始。ゆるっと行こう。

⑩20分ほど犬取滝に出合う。
行く手を遮る20m以上の直瀑。
周りを高い壁に囲まれ、その壁の切れ目からどうどうと流れ落ちる神の路。

右岸を巻く。
落ち葉に覆われた泥付の急斜面を、まばらな灌木とチェーンスパイクを頼りに
上り詰めると落ち口のチョイ下くらいの高さで険しい側壁に阻まれ、巻戻される。
尾根を狙ってトラバース気味に巻き上がる。
側壁が切れたところで、下流の右岸に合わさる急峻なガレルンゼの側壁の上に出る。
下に切れ落ちた右壁と行く手を阻む左壁の間を注意深く進むと左の壁が切れて
尾根を上流側に抜ける。落ち口15m位上のところでコンタを読み、斜面を観察しながら
モンキー気味にザレ交じりの斜面をおりる。

少しづつ傾斜の上がって来ているゴーロの谷筋を、浮き岩に注意しながら歩を進める

⑪ジョレンの滝は、もう目の前にあった。
落差合計60m。左岸に20mほどの雫滝を従えたその神々しいまでの雄姿は
旅のフィナーレを飾るにできすぎなほどドラマチックであった。
3段に分かれているのだろうか?最上段の落ち口は見上げた遥か頭上から
まるで紺碧の空を割って水をほとばしらせているかのようだ。

ただただ、言葉無く、手を合わせ、この白銀の昇り竜を拝んだ。

昨夜の神童子は、この竜の背を滑り降りて遊びにきたに違いない。

⑫旅の終わり
ジョレンの滝も右岸を大高巻きする。
犬取滝といいこの滝といい、今シーズンはまだあまり踏まれていない巻道は
落ち葉に埋もれている。たまに枯れたようなテープをみつけ、それらしい踏み跡を見ることが
できたが、基本それも途中ですぐに見えなくなり完全に現場ルーファイになる。
そう難しくないが喘ぐような急登りを大きく巻き越えたその先で水は徐々に細くなる。
滝上で09:40。
少々時間を食ってしまったが、ここからはさしたる困難もなさそうなので
改めて気を引き締めて詰めに入る。
簡単な小滝が連続する、大樹に彩られた原生林を逍遥する。
やがて、両側の尾根の斜面に熊笹とシャクナゲが見え始めると源流の旅は終焉を迎える。
Co1500あたりから適当に左側の尾根に乗り、熊笹のゆるい斜面を歩くと
ひょっこりと稲村小屋の横に飛び出した。
AM10:30

安堵の溜息は、山上辻を渡る風に乗り、神すまう山並に消えていった。

PM13:00
洞川温泉に下山

山行終了。